1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

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考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第6号

配信日:2013年1月7日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
・・‥‥…………………… by Japan Orientation ………………‥・・・

■□SDPメールマガジン No.6□■
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英 の共同メルマガです。

◆INDEX
1.『「官能主義」が部門間の壁を打破する』大西正巳
全社的に感覚・官能を重視する価値観/風土を醸成し、また官能用語を共通言語化すると部門間の溝や壁が次第に無くなると思います。
2.『シュタイナーの12感覚論』まつもとかつひで
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の5つの感覚に対して、生命感覚、運動感覚、平衡感覚、熱感覚、言語感覚、思考感覚、自我感覚の7つの感覚を加えたものです。より拡い、そして深い感覚を商品開発に活用していきたい。
3.『五感のはたらき』高橋正二郎
目や耳の存在から五感の働きを考えていくと、長い進化の過程で生きるためだけの機能から心地よい刺激を楽しむ働きを身に付けたようだ。

■「「官能主義」が部門間の壁を打破する」大西正巳
多くのメーカーに共通する問題として、事業部間のタテの溝、そして事業部内の企画部門と設計・開発部門・生産部門とのヨコの壁が挙げられます。特に商品企画と設計・開発との連携、協働体制は商品の開発や評価などマーケティング全体の活動に欠かせませんが、このビジネスシステム上の見えない壁は大きい組織ほど厚くなりがちです。また商品企画者の夢や思い、あるいは開発者の情熱や「気」は部署間の心理的なキョリや販売現場に至るキョリが遠くなると薄まってしまいます。そして(新)製品を単なる商売上のモノとして無機的に扱うと製品に込められていた「精」は色褪せていきます。
このような状況を改善し、また壁を無くしていく方策として全社的な「官能主義」の実践が効果的だと思います。官能主義とはハナ(鼻)リシス、シタ(舌)リシス、ノド(喉)リシス、ハダ(肌)リシスなどの感覚器官を駆使した"分析・評価"を日常的に行うことです。つまり官能を武器にしてモノと状況をよく見て考察し、五感的な品質特性やイメージ、商品課題やアイデアについて部門/肩書を超えて活発に意見交換を行う意味です。少なくとも官能用語と商品の官能プロファイルは部門間の壁に設置する「自動扉」の役割を果たすと思います。
官能スキルと官能評価は官能のプロや開発チームの技術屋の道具/業務という固定概念を抱く人が多いですが、優れた官能力を有す企画や営業の担当者も少なくありません。そもそも消費者は、出身とは関係なく自分の感覚を通じて好き嫌い/良し悪しを見極め、モノ・コトを選択しています。従ってメーカーの全員が官能への意識と意欲をより高めていくことが必要です。何よりも官能評価を共にトレーニングしながら実践していく過程から関連部署との一体感が醸成され、戦略の共有化も進むものだと思います。
色の識別障害を持つハービソン氏がNHKの「スーパー・プレゼンテーション」(2012.11.12)の「色が聴こえる」というプレゼンの中で「知識は感覚から得るもの。感覚を拡張すれば知識も増える」と述べています。感覚を磨き、官能経験を積むと色々な仕事の勘所も鍛えられ、変化(匂い)にも敏感になると思います。またイメージ力やコミュニケーション力も高まると期待されます。

■「シュタイナーの12感覚論」まつもとかつひで
商品開発とは商品を通して感動を与えることです。感動は様々な感覚が複雑に絡まり合って生まれます。これまでは、感覚を五感だけで考えていたのではないでしょうか。オーストリアの神秘学者ルドルフ・シュタイナーは、五感に、生命感覚、運動感覚、平衡感覚、熱感覚、言語感覚、概念感覚、自我感覚を加えた12感覚論を提唱しています。外部からの刺激を知覚するだけの五感に対し、これら7つの内部感覚は、内側からのより大きな感動を生み出します。
1.生命感覚
自らの体調の善し悪しを感知し、新緑の季節に、わくわくした気持ちを感じとる感覚。生命の誕生、気持ちのよい天気、木の芽どきのエネルギー。
2.運動感覚
自分自身の状態の変化(「拡散」と「収縮」)を感じ取る感覚。スポーツの楽しさは、筋肉への心地よい刺激であったり、活気や心の発散でもあります。
3.平衡感覚
身体と対象物の調和や対立を把握する感覚。でんぐり返しやジェットコースターなど、平衡感覚を揺さぶられることは生得的な「快」です。揺さぶる、ごろんごろん、飛び跳ねる。
4.熱感覚
人も物も実際に体で感じる温度だけでなく、心で感じる温かさ、冷たさという拡がりを持っています。ホットな情報を発信し、クールな商品を作り、消費者とのウォームな関係を築くことが重要です。温かい、クール、ぬくぬく。
5.言語感覚
オノマトペ(バーン、バキャーン、ボー) スキースキースキーなど、言語はその音や意味以上の力があり、言語自体が一人歩きし、普遍的な意味を持つようにもなります。詩のボクシング 言葉が痛みを和らげる効果を持つ。
6.概念感覚
思い出、想い、記憶、懐かしい。暖炉の前でくつろぐ人と、火事で焼け出された人の「火」への想いは異なります。人の経験によって、意味合いや強弱は大きく変わってきます。商品の背後にある想いや開発秘話が、共感を生むポイントです。
7.自我感覚
自己と他者を理解する感覚。アイデンティティーの確認と自己表現、そして他者を認める心の感覚です。「・・・らしさ」の開発のとって重要では。5感プラス7感の組み合わせで考えてみると、感覚の世界は拡がり深くなるのではないでしょうか。

■「五感のはたらき」高橋正二郎
ドイツの童話作家ミヒャエル・エンデの名作『モモ』の中に、「光を感じるために目があり、音を感じるために耳があり、時間を感じるために心があるのだよ」という一節があります。時間を感じることのできる器官とは大きな飛躍あっておもしろいが、目や耳に関してはそのとおりで、この童話は目や耳の働きを再考する良い機会を与えてくれました。
眼の働きの「光を感じる」とは可視光を物理入力とした感覚のことで、まさしく視覚の定義です。同じように耳の機能である「音を感じる」とは音響刺激によって起こる感覚という聴覚の定義になっています。この目や耳に続くものとして鼻と舌がありますが、目や耳とは少し様子が異なります。それは目や耳へは光や音という物理的なエネルギーが刺激のもとになっていますが、鼻や舌は化学物質などの物質由来で刺激、つまり香りやニオイ、味が生まれています。光や音はエネルギーですから再生することができ、映画やテレビで楽しむことができますが、ニオイの出る映画などはまだ楽しむことはできません。もっとも、光や音はすぐ消えますが、ニオイは物質で消えませんので充満して困ることにもなるでしょう。
ここまで視覚、聴覚、嗅覚、味覚が登場して、あと触覚が揃えば五感の成立です。触覚への刺激はエネルギー、物質、両方とも関与して、よくわからないところがありますので、少し生理学のお助けを得ることにします。
生理学では感覚を特殊感覚、体性感覚、内蔵感覚に分けています。特殊感覚には、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、平衡感覚があります。五感のうち4つの感覚は入っていますが、触覚は入っていません。代わりに平衡感覚が入っています。触覚はどこへ行ったかと思うと、次の体性感覚で、この体性感覚は表面感覚と深部感覚に分かれ、触覚は表面感覚に分類されます。表面感覚は、触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚があり、これらは並列的な関係で、通常意識している、触覚の中に温覚や痛覚がある包含関係とは異なるようです。内蔵感覚は臓器感覚と内蔵痛覚に分かれ、臓器感覚はお腹が空いたとか喉が渇いたというような感覚を扱うことになります。
特殊感覚は首から上に集中して、固有の刺激に対応した働きをもっています。そして、そのほとんどが口の周りに集まっています。動物はエサを取るために口を先頭にして動く訳で、口の周りにあるなら便利です。また、感覚は受動的ではなく能動的に働かすことが求められます。こうして、眼を凝らす、耳をそばだてる、嗅ぎつける、吟味するというような、感覚の能力を全開にして働かせている言葉もできてきました。一方、受動的で危険予知の専用感覚だった触覚も、人間生活の変容に伴って気持ち良さなどを感じる働きを獲得することになり、五感の仲間入りしたものと考えられます。今や五感は、エサを捜したり危険を予知する働きから、心地よい刺激を楽しんだり期待したりする働きへ進化したと思われます。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。
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 ・お客さまの共感を呼ぶ感性価値の溢れた「生活DELIGHT」の商品アイデアを提供します。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第6号(2013/01/07) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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