1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第15号

配信日:2013年10月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.15□■
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英 の共同メルマガです。お蔭さまで2年目に入っています。

◆INDEX
1.『QDAをベースにした商品開発(その3)』大西正巳
QDAチャートに描かれたプロファイル(品質特性)から本質を掘り下げ、それをベースに新たな商品(品質)イメージを膨らませます。

2.『N数のはなし』高橋正二郎
消費者テストで、どれぐらいのN数が適当かという議論は意外にもされていないのが実情です。統計の力を借りるのが科学的な思考といえますが、いくら微差を統計的な有意差と言っても、マーケティング上の差も微差であることには変わりはありません。

■「QDAをベースにした商品開発(その3)」大西正巳
官能評価はモノと自分自身との一種の闘いです。多大なエネルギーを必要としますが、QDA評価に慣れ、次第に闘いの成果(官能用サンプルとデータ/品質情報)が充実してくるとプロファイルを眺め、その特徴の意味合いと個性やおいしさのあり方、あるいは人の嗜好を考えることが楽しくなってきます。そして新しいサンプルを官能する時のワクワク感も増してくると思います。これが官能評価から官能を駆使した商品開発つまり「攻めの官能(官能開発)」へと進む原動力になります。
QDAプロファイルからは品質のメッセージ(香味的な強みと弱み)をまず読み取り、特性の由来/製法を推察しますが、企画・開発者がなぜその品質を設計したくなったのかという考察が大切です。またこの特性のどの官能項目(軸)とスコアが光っているか、更に「誰がどんな場面でどのように消費すると最も喜ばれる品質か」というメリットの評価が大切です。ユーザーの顔や状況が目に浮かぶように考える必要がありますが、総合評価の優れた製品や自社と競合する製品、自分の嗜好に合う製品だけでなく、多様な製品の特徴の意味、効用、市場性等の考察を加えたいものです。そのような視点で常にみていくと品質評価を核にモノの生まれ・育ち・性質(効用の素)を解き明かす“プロファイラー”としての専門的な能力が向上し「目が肥える」「本質を見抜く」「応用が利く」という感覚が鍛えられると思います。そして市場や消費者の実際の反応(結果)と当初の自分の読みとを後に比較・再考することにより商品力の評価スキルも磨かれていくものと期待されます。
QDAチャートには複数の製品プロファイルを描きますが、チャートの軸(官能項目)の中から製品の特性を掘り下げる上で関係しそうな項目を選び、二軸マップとして何通りか作成します。そしてマップ上に各評価製品の特性強度をポジショニングすると製品の分布状態が得られます。そのマップは特性分類上の「表札」を示し、様々な内容を物語りますが、なぜ製品類はそのような分布になるのか、なぜ製品が存在しない象限があるのか、時系列的に製品を眺めるとどのような傾向が見えるか、次なる打ち手(価値ある設計)はどの位置にありそうかなどを検討するための素材となります。
またQDAのチャート上では特定の官能軸のスコアを上げる/下げるとプロファイルの魅力はアップするか、別の官能軸を加える/軸を入れ替えると品質イメージはどうなるかなど遊び心を持ったプロファイルの編集・加工をお勧めします。このように品質特性幅の意図的な変更(試行錯誤)を通じて既存製品の品質向上/差別化に有望なプロファイル(イメージQDA)を見出すことが出来ます。ただ現在までに得られた製品プロファイルと軸の編集、あるいは既存の二軸マップだけでは新たに描ける範囲は限定されます。将来に向けてはダイナミックに新商品(品質)を立案する必要もありますが、その考え方とプロファイルの設計については次号で述べたいと思います。

■「N数のはなし」高橋正二郎
消費者に評価していただくテストの実施で避けて通ることができない事柄にN数のことがあります。つまり、何人の消費者にテストしてもらえれば良いかということです。このことを実際に企業の担当の方に伺ってみると、実にいろいろな回答が返ってきます。
「同じようなテストの前例を捜して、それを参考にします」
「100名以上という社内の慣例に従います」
「多い方が良いと思いますが、予算の許す範囲になります」
「上司の指示を待ちます」
「判断する差の大きさで決めますが、その通りにならないときもあります」
前例踏襲や慣習、予算、上司の判断など、さまざまな方法があるようですが、やはりN数の決定は、まずは科学的な根拠に基づいて決める方法を最初に考えて欲しいものです。つまり統計的な差の検定の考え方による方法です。
統計学の教えるところによりますと、差が大きければ小さいN数で済みますが、小さい差を検定するには大きなN数が必要です。例えば、10%の差を検定しようとすると、N数は100程度必要です。この数字は覚えやすいので、基準の数値として身に着けておくと便利です。さらに小さな差である5%の差を検定しようとすると、N数を増やさなくてなりませんが、ナント400も必要になります。逆に、20%の差であれば25で済みます。
毎月調査されている内閣支持率ですが、今年の9月は一気に7.1%も上昇しました。このような大きな差になると確からしさが心配になるときもあります。事実、7.1%の差が生じると、有意差アリとするN数はN=190であることが求められます。この支持率の調査は、2000人を対象に回答率60%ということでしたから、実質のN数はN=1200であり、N数は十分であることがわかります。逆に考えて、実質N=1200は2.83%の誤差について検定できますので、最初の調査設計の時点では3%程度の差を検定できるようにしているものと思われます。
つまりN数の決定は、比較する対象との差を想定することから始まります。この差が10%以上を期待できないときのN数は100を超えることになり、さらに5%も下回ってしまうようならN数は400をも超えることを覚悟しなくてはなりません。
しかしながら実際問題として、100人からの支持率の差が10人以下になってしまうようなとき、このような結果を採択するでしょうか。N数を400や1600に増やして検定して統計的な有意差が出ても、あくまで微差は微差で、微差であることには変わりはありません。マーケティング上の差も微差で、微差のままでマーケティングを続行するよりは、再考することの方が重要と考えます。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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 ・お客さまの共感を呼ぶ感性価値の溢れた「生活DELIGHT」の商品アイデアを提供します。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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