1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第30号

配信日:2015年1月6日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.30□■
みなさま、あけましておめでとうございます。官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンも、3回目の新年を迎えました。
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして、通号で30号になります。

◆INDEX
1.『匠の技、官能の技の伝承(その2)』大西正巳
技の伝承や教育法の事例は、本人の問題意識と課題の追求意欲(例えば工程や作業の意味合いの理解)に加え、組織的な環境づくりとバックアップ態勢が重要であることを示しています。

2.『化粧品の官能検査現場(2)』高橋正二郎
化粧品の官能評価の現場は、実際を反映した珍しいテストがあり、また、その結果をもとに効果的な使用法の開発も併せて実施します。

■『匠の技、官能の技の伝承(その2)』大西正巳
前号では料理人の技の継承や教育の実践法に触れましたが、今回は他の分野の師匠や親方の異なる考え方を紹介します。まず講談師・人間国宝の一龍斎貞水氏は「心と技は盗ませて伝える‥教わるだけでは情熱は生まれない。技が欲しければ自分で取りなさい、盗んでいきなさいと言う考え方がこの世界にはあります。教える側が若者の立場に降りて行ってはいけない。この方が結果的に若い人の力になっています。こうやって心と技術を伝えるのです。」と心構えを述べています。
また鵤工舎・舎主で宮大工の小川三夫氏は「教えるためには教えてはいかん、もの作りを学べる環境を‥口で言えば30分で済むことでも、教えないと本人が気づくまで2、3日かかることもあります。でも自ら気づき、学んだ事でないと身に付きません。教えてもらおうと思うのが間違い。言葉や頭で分かった気になるのが一番ダメです。教えない代わりに、人が自然に育っていく場所を作ればいい。放っておいてもちゃんと学んでいきます。棟梁になる器の子は棟梁になっていきますよ。もの作りとは、作ったものが歴然と残るわけです。後になって見る目を持った人には必ず本物の技術は伝わる。だからこそ、道具を研ぎ、嘘や偽りのないものを精一杯作っておくことが大事なのです。」という方針を示しています。
一方、最近「ガイアの夜明け」で平成建設のユニークな取り組みが紹介されました。大学や大学院の建築科を卒業した若者が積極的に大工仕事を習得・実践し、理論と実技を身につけてひと味もふた味も異なる新しい大工職人や建築デザイナーを目指すというものです。また分業的に建築に携わるのではなく、色々な資格を取り、全工程に能動的に関わりながらコツやノウハウを身につけることを特徴としています。そのためのオンザジョブの教育システムと自己開発を支える組織風土も備わっていますが、自らの感覚と感性、スキルで完成させることにより職人に必要な責任感も醸成されるものと思えます。
人の問題だけでなく、組織や職場のあり方について、大阪大・岩田一明名誉教授は「匠の技は人から人に受け継がれるだけでなく、組織など『場』が重要な役割を担う。師匠が弟子に教えるだけでなく、弟子同士が刺激しあって生まれる暗黙知があり、技を生み、伝える『場』が重要となる。また新製品、サービスを事業化するには、技術陣や販売担当者らが意見をぶつけあって成案をまとめていく。
ヒット商品を生むのが上手な企業には組織に内在する暗黙知があり、それが世代を超えて伝わっている」と分析しています。
価値観や使命感、信頼感を共有し、何よりも仕事に対する誇りを持てばパワハラとは縁遠くなるはずです。また自分の感覚・知識・経験を人に披露し、伝承する動きは自身の強み/弱みの再発見や新たな充電のよい機会になります。

■「化粧品の官能検査現場(2)」高橋正二郎
前回は化粧品の官能検査の現場の話をしました。現場ならではの真剣で笑ってしまうような話もでてきましたが、実はまだあります。どの商品でも商品の使用場面に近い形のテストは実施されると思いますが、化粧品は種類が多く、それに伴い使い方もいろいろで、先人たちの知恵で様々なテストが考案、開発されてきました。
例えばマニキュアです。マニキュアは発色が良いことが最重要ポイントですが、塗る手間も結構大変ですので、剥げないで長持ちして欲しい要望も強いものがあります。そこで研究者も皮膜を丈夫にしたマニキュアの開発や改良に余念がないわけですが、試作品が出来上がるたびに当然テストを実施します。通常は経時変化を見るわけで、1日後、2日後、というように1週間ぐらい毎日観察や写真を撮って記録します。ですからマニキュアが剥げてきたのに塗り直しもできないままテストの継続という、化粧品メーカーの社員としては非常に辛いテストになります。更に負荷をかけるテストもあります。なんと「米研ぎテスト」で、実際にお米を研ぎます。このテストでは、最近の若い人は勢い良くお米を研げる人が少ない、という先輩検査員の嘆きの声が必ず聞こえてくるのもおもしろいところです。もっとも最近はお米を勢いよく研ぐことはありませんので、米研ぎテストも過去の遺物になる運命かもしれません。外部の方にこのテストの話をすると、「研いだお米はどうするのですか」という質問になってしまうことがあります。仕方なく回答しますが、「炊き上げて、おにぎりにして、お昼や残業の合間にいただきます」、ということになります。
食べ物ついでですが、ものを食べるテストもあります。口紅のテストでは、色落ちしにくい口紅のテストでは、口紅をつけてから実際にものを食べて、前後の写真を撮って比較をします。よく使われる食べ物は「うどん」です。また、お客さま相談窓口などに実際に寄せられた意見には、ピザを食べると口紅が落ちるという件数が多いため、ピザもいただくことになります。口紅の官能検査員は、うどんやピザが嫌いでは勤まらないことになります。
以上のテストは視感テストと呼ばれている視覚で判定するテストですが、化粧品は目で見て判定することも非常に多いのです。視覚で判定するテストでは光源の設定が重要です。まず、量的な明るさである照度を決めなくていけませんが、光源の質的な違いの方が重要で、蛍光灯、白熱灯、太陽光では見え方そのものが違ってきます。特にメーキャップ化粧品は光源によって効果が劇的に異なります。
蛍光灯の下ではメーキャップは落ちついて見えますが、白熱灯のもとではいわゆる「メーキャップ映え」がして、効果が強調されます。また、太陽光のもとではこの中間の効果になります。ところがお客さまは、この光源の違いによる仕上がりの差を意外と意識が弱いようです。特に、蛍光灯と太陽光の差が意識しづらいようです。
朝、お勤めをしている女性が自宅の蛍光灯のついた洗面所でお化粧をして家を出ました。会社に向かう途中に戸外で鏡を出して顔を見たとき、いつもより目立ち気味のメークが気になりました。そこで道の端へ寄り、急いで落ち着いたメークに直して会社に向かいました。ところが席についたら、同僚の女性から「顔色悪いわよ、どうしたの」と言われました。驚いて鏡を取り出して顔を見たら、まるですっぴんのような自分の顔があったそうです。
どの光源のもとで、どのようなメーキャップに仕上げるか。場面によってメーキャップの工夫ができるように情報提供するために、お客さまの生活様態を考えて、官能評価時には美容法の開発も併せて実施します。例えば、春は外出が増えるので、太陽光下でのメークを考えます。また、12月はレストランなどで食事の機会も増えると思います。演色性の高い白熱灯のもとでのメーキャップを推奨するための美容法のパターンを作成します。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第30号(2015/01/06) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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