1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第33号

配信日:2015年4月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.33 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして、通号で33号になります。

◆INDEX
1.『感覚刺激のオンとオフ』大西正巳
感覚は同じ環境の中では慣れてしまい、感じにくくなるため、環境や状況のオン・オフと感覚のリセットが時には必要です。

2.『官能は言葉から』高橋正二郎
官能評価は言葉が命で、的確な言葉がなくては十分な官能の記述は不可能です。未知の官能に踏み込むためにも操作系の言葉を超えた記述力の高い言葉に取り組む姿勢が大切です。

■『感覚刺激のオンとオフ』大西正巳
前に少し触れましたが、色々な酒類のノージング/テイスティングが毎日のルーチンになっています。また食事の際には良かれ悪しかれ香り・味わい・食感などを分析的にみるクセが定着しています。一方で、常に「感覚評価/官能評価」に力を入れ過ぎると疲れるため、感覚のオン・オフ(集中と開放)あるいは官能“意識”のオン・オフも重要だと考えています。ただ感覚そのもののオンとオフの線引きは難しく、人は常に外界と接することにより官能/感覚的な刺激を受けてフィジカルあるいはメンタルな反応が生じています。
さて自然界や音楽などのゆらぎの波長を無意識に五感で浴びていると心身がリフレッシュされる感じがあります。自然界のゆらぎ(1/fゆらぎ)はせせらぎの音やそよ風に代表されるように心地よいリズムがありますが、視覚、聴覚、触覚だけでなく五感全体に作用します。個人的な話ですが、京都・洛西の「竹林公園」を毎日散歩していたことがありました。そして花粉の飛散時期に公園の中を歩くとくしゃみが不思議と収まるという経験をしました。竹や笹の表面が花粉を吸着/捕捉しているのか、花粉症に有効なフィトンチッドを放出・中和しているのか、筍の成長因子が何か貢献しているのか、と想像したものです。しかし今思えば、緑鮮やかな竹や笹、そよ風と共鳴するさざ波的な音、優しい木漏れ日、舞い落ちる笹や竹の揺れ方、竹林に響く鳥のさえずり等の心地よいゆらぎのリズムが全身を包みこみストレスを緩和してくれたのでしょう。人の免疫システムは免疫細胞間の微妙な活性バランスでゆらぐそうですが、恐らく竹林のゆらぎの波長が一時的には免疫力の改善に有効だったのではと解釈しています。
さて「(1/f)ゆらぎ」の不思議な作用については武者利光氏、佐治春夫氏、遠山高史氏らの著書に詳しく載っていますが、生体や五感への影響、好き・嫌い、快・不快などとの関係を検討するための有用な参考書の一つです。外界も人もゆらぎに満ちた存在ですので我々の官能も当然ゆらぎます。同一サンプルの官能評価の精度と結果の再現性にはある程度こだわるべきですが、酒類製品の一定のゆらぎはむしろ美味しさの一要素になると思います。精密機械や電子製品とは異なり、気候風土の影響を受けて育つ農産物を原料として四季の条件下で製造される酒類には自然界のゆらぎと人のゆらぎのリズムが当然反映しています。このようなリズムが織り込まれた製品のゆらぎは無秩序なバラツキとは根本的に異なります。バラツキは主に製造技術と官能のスキルの弱さ、品質スペックのあり方と判断の拙さが主たる原因になります。
製品のQDA上の「ゆらぎ(意味あるノイズ)」を見出し、特徴の微妙な差の意味合いと由来を考察することにより新品質の発想が広がります。例えばその官能軸のスコアを拡大/縮小したらどうなるか、他製品へ横展開するとおいしさはどうなるかなど、まずは官能的に感じ、そして考える、また感じてみて考えるという楽しい作業をお勧めします。

■「官能は言葉から」高橋正二郎
官能評価は用語の設定が全てといえるほど用語が大切で、官能評価に携わる人たちは適切な記述のために言葉捜しに余念がありません。官能という一見掴みどころのない概念を客観的に記述し、仕事をする仲間に概念の共有化をはかることは易しいことではありませんが、よりおいしい味、より素敵な香り、より気持ちの良い感触などを開発する現場では避けては通れません。
官能用語は一般に分析的な記述に耐えられる機能を持たなければなりません。また、モノづくりのための創造的官能評価はモノづくり用の官能用語が必要です。そのためには操作系用語という分化・樹状図化された用語を準備し、その用語が示す特性を操作することにより、目標の官能表現を達成するというものです。この操作系の官能用語は実用性が高く、モノづくりには便利ですが、香りや色調などのイメージを描写するときには操作系の言葉では限界を感じるときがあります。
例えば、香水やオーデコロンなどのフレグランス製品の香りのイメージの表現は調香師などの専門家の間では言葉が準備されていました。ノートと呼ばれ、フローラル・ノート、シトラス・ノート、グリーン・ノートのように、それぞれ「花のような」、「柑橘のような」、「草木のような」というような香りの要素を表していました。つまり、フレグランスの香りは、前述の花、柑橘、草に加え、果物、木、柑橘、苔、皮革などの要素から成り立っているので、「花のような」、「果物のような」、「森のような」という言葉で記述を試みてみました。ところがこの類の言葉は体系的に訓練を積んだ専門家の言葉であることから、的確な記述をするために分化を進めた言葉になると、複雑かつ専門的で門外漢にはとても歯が立ちません。また、わかりやすい言葉に限ってしまうと、すぐに行き詰ってしまいます。つまり、フローラル・ノートの意味するところは非常に広く、「花のような」という言葉だけではフローラル・ノートの記述はみな同じになってしまいます。また、一方で「どんな花」という分化した概念にも対応が難しく、わかりやすい範囲の限られた言葉だけではとても記述はできません。
そこで、記述力を高めるために少し抽象度を上げた言葉を複合的に用いて記述をすることになります。「華やか」⇔「地味」、「重い」⇔「軽い」、「女性的」⇔「男性的」、「くっきり」⇔「ぼんやり」というようなプリミティブな言葉を用意して、そのプロファイルで記述をします。この範疇の言葉で注意したいのは、「華やか」⇔「地味」のように対になる概念が明確な言葉で表されれば良いのですが、必ずしもそうはなりません。例えば、「甘い」の対極の言葉は「辛い」でも「酸っぱい」でもありませんから、「甘くない」にしておくのが妥当といえます。また、「花のような」という言葉も併用しますが、この言葉も「花のようではない」としておくのが賢明だと思います。また、「若い」の対の言葉を「年寄りじみた」などとしてしまうと、「年季の入った」とか「熟成された」という概念が抜けて、若くないことが否定的な評価になることがあるので、「若くない」とした方が適切と思われます。よく、「新しい」⇔「懐かしい」という対語関係を用いるのも同じ理由からのものです。
さて、対語関係のあり・なりにここまで拘るのは、プリミティブな言葉を使った評価はプロファイルでも吟味をしますが、用語が多くて手に負えなくなると多変量解析の助けを借りることが多くなります。主成分分析や因子分析などでは、用語と用語の関係を読み取る作業があり、そのときは逆方向の意味が重要になるときがよくあります。そのためにも、対の概念を明確にしておく必要がある訳で、対の概念を蔑ろにしては多変量解析も実力を発揮できないことになります。
操作系の言葉が言葉出しで苦戦したと同じように、プリミティブな言葉の用意はもっと大変かと思います。普段の官能評価の場からは出にくい言葉であることは確かです。他の分野、例えば、音楽、美術、グルメなどの記述が大いに参考になると思います。特に、音楽は抽象性が高いことから、「現代的」⇔「古典的」、「都会的」⇔「牧歌的」などの表現が使用されていて、大変参考になります。
また、今までにない概念や新しい言語表現が欲しいときは広辞苑などの大きな辞書をめくってみるのも一法です。3000ページという量ではありますが、3週間もあればめくり切れるので、ぜひ挑戦されることをお奨めします。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第33号(2015/04/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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