1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第35号

配信日:2015年6月2日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.35 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして、通号で35号になります。

◆INDEX
1.『感覚と感性について』大西正巳
外界の刺激を楽しみ、得られた感覚情報の本質的な部分と周辺へのイマジネーションを膨らませて感性に響かせることが大切だと思います。

2.『SDPの意外な壁』高橋正二郎
人間の感覚を活用する官能評価や官能開発は誤解や曲解が多く、真のねらいが伝わり難い状況です。有効な手段であるのに、忸怩たる気持ちで一杯です。

■『感覚と感性について』大西正巳
「感性」という言葉は辞書や色々な記事に見られますが、英語では、感覚がsense/feeling、感性がsensitivity/sensibilityとなっています。そして日本的な感性の微妙な意味合いを表現するためか「kansei」も辞書に載っています。
感覚的に知覚しても感情や感動が何も湧かないという特殊な例があるところから、情報の感覚的な処理と感性的な処理は同じではないと言われています。ただ、一般的には感覚的な知覚力/官能力と感性/感受性や個性とは密接に関係していると思います。つまり感覚が感性や(美)意識を生み・育む、そして感性が感覚を鍛えるという相互の波及関係が生じています。一方、感覚/官能評価(例えばQDA)はデータ化/ビジュアル化が可能であり、また機器分析データで官能評価を補えますが、感性や美意識はデータとして示すことやコミュニケーションに難しさがあります。
感性や感覚の考え方は多々あると思いますが、参考までに幾つかの意見を紹介します。まず感性について印象に残ったのは、ベストブログ賞を二年連続受賞したカナダのニール・パスリチヤ氏がNHKスーパープレゼンテーション(2015.3.25)で語った「感性は、自分の中の三歳児を大事にすることで豊かになる。三歳児は何もかも(匂い、音、花、遊び‥)が新鮮でワクワクする。初めて何かをした時の素直な喜びを忘れないこと。人は自分の中に三歳児を保有しているはずであり、暮らしの中の小さなこと/素敵なこと(awesome)を見つけ、感動することが大切」という意見です。
また少し視点が異なりますが、「ニコニコ動画」のドワンゴ代表・川上量生氏の「今、ネット社会は進化して勢いがあるから新しいことが美徳という価値観で覆われている。また若いビジネスマンの多くは効率化を信じきっている。僕たちは、春になって桜が咲いたら『桜がきれいだね』と言う。毎年みんなが何度も何度も桜がきれいだと言い、そういう無駄を繰り返して生きていくものです。古い意見だって、人がさんざん言ったことだって、たった今自分が感じた気持ちを許されるのが幸せな社会だと思う。」と言う意見も感受性を考える上で参考になります。
またコルク代表の佐渡島庸平氏は「生活のスピード化が激しくなると忘れたり、気にかけなくなったりすることが増える。だから今はどんなことにでも自分の感想や考え方を持った方がいい。良い・悪い、何も感じなかったでも構わないので何かに対して自分はどう反応したのかということを意識する癖が重要となる。」と述べています。
問題意識/目的意識、そして好奇心を持って色々なモノやコトの観察/観賞あるいは五感的な接触を続けることが大切です。鳥と虫の目を持ち、また効用発見マインドを持っていればセレンディピティも自然と増えるのではと期待できます。
ただ肩に力を入れ過ぎた感覚の酷使やギラついた目で臨むことは控え、ゆとりも忘れないようにしたいものです。感覚的な刺激と情報、あるいは先入観を時にはリセットし、自然なリズムに身を置いて感覚を自由にすると再び感度と鮮度もよみがえる気がします。

■「SDPの意外な壁」高橋正二郎
私どもが推奨しているSDP(Sensory Design Program;感性価値開発設計プログラム)はいわゆる官能開発で、人の官能を活用して価値を創り出すことですが、意味するところの理解を得るには意外と苦戦を強いられます。どうも、官能という言葉が誤解を受けやすいことや、官能に理解があっても官能検査のイメージから抜け切ることのできない方もいて、官能開発へはなかなか到達しにくい状況です。
増山英太郎・小林茂雄著『センソリー・エバリュエーション−官能検査へのいざない−』という本のまえがきに興味ある記述がありました。副題にある「官能検査」という言葉に違和感を覚える人が少なくないということで、特に学生の間に強いとのことのようです。中には、「ポルノか、その辺のキワモノか」という好奇心でパラパラとめくる学生もいるとのことで、大学で教鞭をとっている著者には気がかりらしいです。また、著者の増山は官能検査という用語にも違和感をもっているようで、意味が狭くならないようにセンソリー・エバリュエーションという用語を併用することに心掛けていることが多いようです。官能検査と名づけられた経緯に触れ、「官能検査という言葉は既に大蔵省などで古くから使っている伝統がある」というツルの一声で決まったらしいのですが、この発言をしたのが、官能検査の大御所の増山元三郎で、なんと著者増山の伯父だそうです。この負い目も大きく、研究以前のところで苦労していたことがわかります。
大学の専門家でも苦戦している官能評価の市民権確立ですが、私どものSDPや官能開発も理解を得るのは大変な思いをするときもあります。メーカーさんに出掛けて説明をするにしても、先方に事前に概要を話すとそこで誤解が発生します。普通の気持ちで「官能」とか「官能評価」などという言葉を使って内容を伝えると、出席される方が官能検査の部署の方になることがあります。説明をすると「官能検査の精度が上ることは良いことだ」などと仰っていただき、とても良く聞いていただけるのですが、「官能検査のレベルは現行で十分」、「官能検査を向上させても売上げが劇的に上るとは思えない」、と現在のご自分の守備範囲から出てきていただけないばかりか、全社的な視点に立ったご理解にならないのには困りました。
クール・ジャパンという掛け声のもとに、日本の優れた感性価値が紹介されていますが、まだ、名人や達人が逸品をつくったという状況で、工業化や量産化された感性価値の開発例は少ないようです。工業化や量産化のもとでも質の高い感性価値を創り出すのがメーカーの仕事です。SDP(Sensory Design Program;感性価値開発設計プログラム)の導入は新たな設備や人材を必要としません。ほんの少し意識づけを変えていただければ直ちに稼動可能です。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第35号(2015/06/2) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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