1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第38号

配信日:2015年9月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.38 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で38号になりました。

◆INDEX
1.『官能機能の再構築と強化』大西正巳
飲料・食品等のメーカーにとって官能(評価と開発)は他に委ねることのできない生命線の機能であり、商品価値を生み、育てるためのパワーの源泉です。

2.『感性価値における言葉の翻訳』高橋正二郎
お客さまが求める感性価値はお客さまの言葉で表されていますので、正確に把握するには言葉の翻訳が必要ですが、モノによる確認があって、初めて翻訳が完了します。

■『官能機能の再構築と強化』大西正巳
何が自社の強み(コア・コンピタンス)なのか、また弱みは何か、というのを冷静に問い、そして目指す姿は何かというのを常に共有することが大切だと思います。メーカーのビジネス・システムの中で生産や販売あるいは間接部門の外部委託、クラウド・ソーシングによる必要な機能やスキルの調達、更には著名なプランナー/デザイナーによるブランドの総合プロデュースなどが珍しくなくなりました。確かにこれらは目的を効率的に達成するひとつの手段だと思います。
しかしマーケティング機能と共に「官能だけは自前」であるからこそ品質の設計開発力が高まり、また「思い」や「独自性」そしてメーカーとしての「らしさ」を発揮できると信じます。つまり自前でおいしさを評価し、おいしさをつくり込むという覚悟がマーケティング・パワーのある商品を構築していくと思います。
ただし官能情報が単にサンプルの評価結果しか示さないのであれば商品戦略の情報源としては不十分です。他サンプルの官能特性に比して強み・弱みは何か、品質あるいは製品的なポジショニングから何が読み取れるか、そして今後の自社の課題と打ち手は何か、というような総合的な考察を含め今後の製品戦略に無くてはならないものにすべきです。そのためには、自社に相応しい攻めの官能人材の 育成と官能スキルの絶えざる向上、そして企画・設計・開発機能の連携強化(ハード・ソフトのシステム化)が不可欠になります。これらを包括したのがSDP(Sensory Design Program)になりますが、何よりも継続的な実践を通じて成果と問題点を評価し、自社なりのSDPスタイルにリファインしていくことが重要です。同時に暗黙知の形式知化と共有化そして固有スキルの継承課題/財形課題も見えてくると考えられます。
「伝統芸能では、『形』ではなく『型』をまねよと言われる。外見的な様式や所作が形だとすれば背後に潜む本質的で深い意味まで理解するのが型をまねることではないか。暗黙知を解く一つのヒントとなる。モノづくりは、ものを作る技だけでなく、仕組みを考えたり、システムや人を動かしたりするスキルがあり、相互に関連して働く。製造現場で物をつくる技だけを伝えてもダメで、職場の環境まで考えないと熟練技術は伝わらない。技術と技能は二重らせんのように発達し、その時代の技術に合った技能こそきちんと継承しなければならない。F-1やロケットでは抜群のチームワークで偉業を達成することがよくあるが、リーダーの力量だけでなく専門の違うメンバー同士がスキルを融合させ、いわばチーム全体の暗黙知がある。成功する企業文化・風土とは何かを探る糸口になり、人間の知恵とは何かにも迫れる(大阪大・岩田一明名誉教授)」という意見も参考になります。
官能のプロはコンセプトメーカーでもあり、商品のパフォーンス全体のデザイナーでもあるべきだと思います。そして個人の発想やゴールのイメージを大切にしつつシステム的に商品を完成させる、というDNAが重要になります。

■『感性価値における言葉の翻訳』高橋正二郎
美味しい味、素敵な香り、気持ちの良い感触、好まれるパッケージイメージなどの感性価値の創造に携わる人たちは、感性価値を表す言葉捜しに余念がありません。
この言葉はメーカーにとってはとても大切で、この言葉をたよりに感性価値の創造活動を進めていくことになります。また、この言葉の体系はメーカーに固有のもので、メーカーのモノつくり文化そのものでもあります。
一方、感性価値の多くは嗜好性向が強く、お客さまの好みに合わせることも大切です。そこで、あらゆる手法を駆使してお客さまの嗜好を把握することに血道を上げることになります。そして、得られた結果を読み込んで創造すべき感性価値を確定する訳ですが、この手続きには落とし穴があります。というのは、メーカーの言葉とお客さまの言葉は表すところの意味が異なる場合があるからです。また、感性価値は言葉で表現されるものですが、お客さまはお客さまの言葉で表現します。このとき、お客さまが言っていることをメーカーの言葉に翻訳が必要になる訳で、この翻訳がうまくいかなければお客さまが欲している感性価値は把握することができません。つまり、お客さま語からメーカー語への翻訳や変換が大切になります。このとき頼りになるのが「モノで表す」ことで、これを怠ると微妙な違いはもとより、明らかな差異も見逃してしまうことがあります。
かなり前、1980年代の話になりますが、売上げは好調だがパッケージの評判が芳しくない商品がありました。そこで、開発の担当者はフォーカス・グループ・インタビューを開催して、この状況を探りました。すると、パッケージのイメージとしては「シンプル」ということで、対象者間で盛り上がり、結論はシンプルになりました。早速、パッケージデザイナーにこの状況を伝え、試作をしてもらい、テストをしてみました。すると、「夢がない」とか「寂しい」とか、散々な評価で終わってしまいました。
今となればその原因はよくわかります。80年代は「シンプル」という言葉が花形でした。シンプルライフに代表されるように望ましいもの、好ましいもの、自分にあったもの、という意味で、30代の女性に使われていました。ですからここでは、私が受け入れられるものという総合評価的な意味で使われていたにすぎなかったのです。このとき、「どんなシンプル」、「例えば、どのパッケージ」というように、モノで確認しておけば大きな失敗は防げたかも知れません。高級感、かわいい、健康的というような言葉は、時代や世代、性別や年齢という普遍的な属性間でさえも意味の差が出やすい言葉です。このような言葉に出会ったら、まずはモノで確認を肝に銘じるべきでしょう。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■■■ 第38号(2015/09/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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