1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第45号

配信日:2016年4月5日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.45 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で45号になりました。

◆INDEX
1.『酒類の官能法の活用』大西正巳
官能用語の選定とスコアリングが官能評価の決め手になりますが、目的に応じてQDA法とSD法を上手に使い分けたいと思います。

2.『店頭推奨活動とQDA』高橋正二郎
QDAに描かれた感性価値はお客さまと共感できる言葉に変換することにより、店頭での推奨活動の大きな力になります。

■『酒類の官能法の活用』大西正巳
酒類のQDA評価を目的とした官能用語の体系化やフレーバー・ホイールの作成は1970年代にワイン、ビールに始まり、その後ウイスキー、ブランデー、ジン、ラム等のスピリッツでも実用化されています。最近では清酒や焼酎の官能評価にも広がりつつあります。酒類以外ではコーヒー、紅茶、調味料、ハチミツ、チーズ、冷凍食品、化粧品、タバコ等に既に活用されています。酒類関連の官能用語は総括的な香味用語とそれらを更に展開した二次・三次用語で構成されています。二次・三次用語レベルになると食品、食材(果実/野菜‥)、花、お香、香水、生活用品など幅広いジャンルから選ばれた具体的な言葉と意味合いに絞られてきますので特徴の理解と共有化が容易になります。用語の収集・選択にあたっては自社内と業界や評論家が日常的に用いている言葉だけでなく、一般ユーザーや雑誌等に表現される言葉も含めて検討します。造り手が独自に用いる専門的な用語(工程用語、素材用語、成分用語など)も多く含まれていますが、パネル内で用語の位置づけと定義の共有化が図られていればQDA評価そのものには問題ないと思います。ただユーザー向けの品質訴求メッセージに展開する場合は、個々の専門用語が持つ官能的な特徴や意味合いを分かりやすく翻訳しておくことが必要です。そして用語からイメージさせるおいしさの方向性やメリットも整理しておきたいものです。
品質特性を浮き彫りにするには当SDP(Sensory Design Program)の官能評価・開発のツールであるQDA法だけでなくSD(Semantic Differential)法もあります。SD法は感性的なニーズのアンケート調査などでよく用いられますが、複数の対になる形容詞や感性的な用語、例えば「明るい/暗い」「大きい/小さい」「やわらかい/固い」などを5または7段階でスコアリングします。そのプロファイルの形から感情的な意味(印象・イメージ)がどのように捉えられているかが判断できます。SD評価では「さわやかな」「渋い」「若々しい」などは捉え方の個人差が少ない形容詞で、「モダンな」「ナチュラルな」「好き」などは個人差が大きくなると言われています。また「幸福」という言葉に対応する形容詞でプロファイルを比較すると、国によって「幸福」の捉え方が異なってくることも報告されています(人間工学誌:2009)。SD評価では「良い/悪い」「うまい/まずい」「好き/嫌い」「美しい/みにくい」という総括的あるいは結論的な評価軸も選ばれることもあります。一方、QDA評価では好き嫌いや良し悪しを直接評価するのではなく、文字通り「定量的に特性を描く」ことが目的のため、用語(評価軸)ごとの官能的な強さをニュートラルに捉えることがまず必要です。総合評価はその後になりますが、パネルの結論だけでなくユーザーのタイプと場面、そして使用法をいくつか想定し、その特性(フレーバー・プロファイル)がどのように評価されそうかという考察も重要です。また競合商品とのプロファイルの直接比較や特性の二軸マップを通じて強み・弱みを把握する、更には将来的な品質イメージづくりや様々な設計・開発課題を遂行するために大いに活用したいものです。

■『店頭推奨活動とQDA』高橋正二郎
QDAの周囲に貼り巡らされた言葉は深慮苦吟の末に搾り出したものが多いと思われます。その言葉の並び方もいろいろな工夫があるかと思います。並べ方も決めておくと各試料の評価がパターンとして捉えることができ、視覚的なイメージと連動することにより評価の結果の理解を早めたり、類型化したりすることも可能になります。
化粧品の官能評価の現場では、QDAの言葉の配置は評価順が多いようです。化粧品の使用感の官能評価は2本立ての構成で、化粧品のもつ物性面の官能評価と、肌に作用したときに起きる感覚についての官能評価から成り立っているからだろうと思います。そのような配置を意識しながら、自他社の商品についてQDAの評価を眺めてみると、意外なおもしろさに気づきます。
市場でリーダー格のMのクリームの使用感のQDAを描いてみると、意外なことがわかります。「のびの滑らかさ」や「のびの重さ」など、クリームの使用場面で最初の部分で感じられる使用感が特長的になっているのです。つまり前半勝負の使用感の設計という訳です。このような使用感設計をマーケティングの面から考えると、どう解釈すればいいのでしょうか。
その前にAMTULという文字の並びを思い出してください。自社の商品やブランドが市場でどの程度浸透しているかを判定する指標です。つまり、A(Awareness:再認認知)、M(Memory:再生認知)、T(Trial:試用経験)、U(Usage:現在使用)、L(Loyal use:愛用固定)という段階を示します。再認認知と再生認知は、「言われればわかる」という再認認知と、「言われなくても思い出す」のが再生認知という違いです。ここで注目するのは、T→Uの動きです。認知は低いが品質が良く、トライアルを高めれば使用が見込める潜在力をもった商品があったとします。このような商品についてはトライアルを高める方策として、まずはインストア・シェアを高める施策が投入されます。POPを充実させたり、インストアプロモーションを打ったりする訳ですが、トライアルの強制化という方策も採られます。サンプル配布です。これにはサンプルの配布だけではなく、食べ物や飲料なら試食・試飲コーナーの展開も含まれます。とにかく試用の状態に持ち込めばシメタものです。そうすれば、あとは買いに来ていただくことをお待ちするだけになります。
先ほどのクリームの例に戻りますと、前半勝負の使用感はT→Uを強力にサポートしています。店頭で販売員がテスターを使ってお客さまに推奨するときは訴求できる使用感の範囲が限られ、クリームが肌に触れた感触や肌にのばしていくことなどの前半の過程が訴求の中心になります。つまり、お客さまの前でテスターのクリームを指に取り、手の甲に静かに伸ばします。このとき、お客さまにも同じように手の甲に伸ばしていただきますと、肌の上に滑らかに広がる感触を「この緻密で深いのび」、「高級リムジンが厳かに動くよう」という言葉を添えて推奨できます。お客さまはこのような感触は経験してはいるものの、言葉と併せた体感はしていませんので確かな実感として心に残るお客さまもいらっしゃいます。その実感が購入に結びつけば、添えられた言葉によって使用感を楽しんで使用していただけるでしょう。この楽しみはクリームの連用を促し、本来の目的である実効につながります。
このような店頭活動でトライアルにお誘いして、感性価値の共感を通じて現在使用に推奨することができます。そのためには、まずQDAを読み込み、訴求できる価値を搾り出します。ついで、この価値をお客さまの共感がえられる推奨の言葉を慎重に変換し、実技と連動させた店頭話法をつくり込みます。こうして、T→Uの支援体制がつくられます。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを33年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第45号(2016/04/05) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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