1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第47号

配信日:2016年6月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.47 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で47号になりました。

◆INDEX
1.『官能評価とオノマトペ』大西正巳
日本では定性的な官能表現にオノマトペがよく用いられますが、個人の素直な感じ/気持ちの表れだと思います。ただ時代的な背景にも左右されそうです。

2.『前掛り型官能設計を防ぐには』高橋正二郎
売れ行きがイマイチ、リピートがないという商品は前掛り設計になっていることが多く、モノつくりのプロとしての誇りをもって官能特性の最後の余韻まで丁寧に吟味して欲しいです。

■『官能評価とオノマトペ』大西正巳
酒類に比べて食品の食感/テクスチャー用語数はかなり多く、食品の専門家により分類された用語は445にのぼり、そのうち135が一般の消費者の食表現の言葉になっているようです(食の官能評価入門:光生館)。食や食事の表現にオノマトペが多く含まれていると五感的な質や特徴を伝え、共有することが容易になり、また想像力も広がります。ただ受けとめ方には多少の差が生じるかも知れません。個人的な印象では、関西はモノや状況あるいは感情を表わす際のオノマトペが賑やかだと思えます。その一部は「キュッと曲がって90度・関西オノマトペ用例集」に意味合いが面白おかしく紹介されています。また一般にコミックにはオノマトペが多く用いられますが、「タカコさん:徳間書店」には日常生活の随所に聞こえる音、そして「ワカコ酒:徳間書店」には飲食の場面で聞こえてくる様々なおいしい音に満ちています。マンガ評論家の南信長氏は「コミックの擬音は音質、音量、リズムや距離感が手に取るように伝わってくる。コミックは音の世界を可視化する」と述べています。なおオノマトペについては触感の重要性や触覚情報を含めて「触楽入門:朝日出版社」にも色々な面から記されていますので参考になると思います。
一方、電通大では痛みの症状(ガンガンする/ズキズキする痛みなど)を表す擬音語の感性的な印象を8種類の形容詞の対(強い/弱い、鋭い/鈍い、熱い/冷たい、広い/狭いなど)で判定する「擬音語解析システム」を開発しました。各擬音語が何を表しているのか、擬音語を構成する一文字一文字の印象を調査し、計算式に当てはめて数値化したそうです。この方法論は飲食関連の色々な擬音語の評価系として応用可能だと思います。
さて酒質に直接関係するオノマトペは少ないものの、香り・味わい・喉ごし・あと味を評価する際には時々用いられます。その多くは触感とも関係しているイメージがあり、例えば香りを嗅ぐ(ノージング)と鼻をスッと撫でる、鼻にまとわりつく/粘りつくような香りの印象が得られことがあるからです。これは香りがにおい受容体に至るオルソネイザル経路を通過する際の、また口中香がレトロネイザル経路を通過する際の一種の皮膚感覚と言えるかも知れません。香り分子の大きさ、構造、振動、揮発性、水溶性/脂溶性は様々ですが、その固有の性質に応じて触感のスペクトルも得られるのではと思えます。ただフレーバーの溶媒でありキャリアーでもあるアルコールの濃度や口中の温度などによって香味の触感も影響を受けそうです。更には直接的な感覚と言うよりも、ミクロなフレーバー物質が魂(スピリッツ)や髄に浸透し、触れ合う感じも得られます。例えば「生命の水」と称されるウイスキーやブランデーにはリラックス効果や生物活性的な効果を示すフレーバー成分が含まれていますが、それとは別に樽熟成された華やかでリッチな香味が嗅覚・味覚・触覚を超えてスピリチュアルな内面(心地や充実感)を揺さぶるイメージです。おいしさはその後から、あるいは結果として感じているのかも知れません。「美味しさの脳科学:インターシフト」には「風味は脳の創造物である」という指摘がありますが、品質の評価や開発にとって感覚の複合や増幅作用など「クロスモーダル効果」は興味深い切り口だと思います。

■『前掛り型官能設計を防ぐには』高橋正二郎
前号、前々号で、味や香りや感触の設計が前掛りになっている状況を心配してやみません。お客さまの声の反映とはいえ、チョット見の味ともいうべき安直な味に全てを託すのはどうみても無謀なことです。このような味や香りは一瞬は良い評価が得られるため1回は買っていただけそうです。ところが、何度か賞味を続けるうちに、満足の度合いは重ねるごとに下がり、いつしか見向きもされない平凡な商品になってしまうでしょう。もちろんリピートにはならず、莫大な販促費をかけても一見のお客さまを追いかけるだけで、継続的な愛用者は増えないでしょう。ですから、宣伝やプロモーションの手抜きをすると、途端に売上げが下がります。そこで慌てて宣伝やプロモーションを強化するということの繰り返しになります。折角の売上げも次から次へと告知や販促の費用に消える訳で、広告代理店だけが潤うことになります。
そこで、いわゆるチョット見の味つくりではなく、最後の最後の後味や残り香の部分までしっかりつくり込まないと満足の得られる味にはならないでしょう。そのためには、官能評価用語をもう一度書き並べてみることから始まります。試料を口へ入れる前の香りから始まり、先香り、先味、中香り、中味、後香り、後味と該当するすべての官能特性について評価をします。そして、データが揃ったらQDAを描き上げます。そのときのデータの配置の順は、評価の順、お客さまが賞味していくだろうと思われる順に配置します。その官能特性を賞味順に吟味していきますが、データだけではなく、常にモノを傍に用意して実際の官能も確認をしていくことも忘れてはいけないことです。
さて、その官能特性の吟味ですが、(1)評価順序の前の方に特性に設計の重点が移行していないか (2)表層的でお客さまのわかりやすい特性に設計の重点が移行していないか、まずはこの2点で考えてみるのがよろしいかと思います。すると、まずまずの売れ行きの商品であっても、意外と前掛りの官能設計であったり、お客さまから出た言葉だけの商品であったりします。ここはメーカーのプロとしての矜持をもって見直すべきです。
満足を感じていただく特性はどこにあるのか、という命題に対してはもっとプリミティブに考えておく必要があります。すなわち、お客さまはわかっていても言葉にできず、わかる範囲の感覚や言葉でしか表現できないことがあります。「もう一度」とか「次もこれ」ということを念頭に置きながら、順を追って最後の余韻まで丁寧に吟味をしていけば、満足につながる特性やリピートを呼び込む特性の発見になるでしょう。官能による価値開発に情熱や責任をもっている担当者なら、必ずや官能のツボを発見できる筈です。私どもは常々、お客さまに代わって満足やリピートにつながる官能特性を追求する姿勢をもつことが大切です。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを33年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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