1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第25号

配信日:2014年8月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.25□■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンも、3年目に入りました。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同 高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、3年目初回は通号で25号になります。

◆INDEX
1.『名人/達人の光る言葉から(その2)』大西正巳
総括的/情緒的な言葉の中から「シンプル」についてプロの意見を紹介します。

2.『触覚を再考してみる』高橋正二郎
触覚は生活場面での出番も少なく、注目されている感覚ではありません。研究も他の感覚に比べて遅れているようです。一方で、気持ちよさや忌避感については感度の優れた感覚であるといえそうです。

■「名人/達人の光る言葉から(その2)」大西正巳
商品のイメージ的な価値を示すシンプルやラグジュアリー、セクシー、幸せ、爽やか、和やか、ピュアなどの総括用語を設計品質に加えるには、まず色々な切り口からその言葉の意味を定義し、具体的な官能項目(軸)に展開することが必要です。そして重要と思える項目を選び出し、ビジュアルな設計図とも言える目標イメージのQDAプロファイルを描き、試作・評価を行います。
前に「飲み易い」という消費者の総括的な用語を中味設計に落とし込むにはユーザー層の特性に応じて大きくは二つの方向性になることを示しました。今回は「シンプル」についての意味合いを考えたいと思います。「フェラーリ」のデザインを担当した工業デザイナーの奥山清行氏は、「シンプル」を二つの内容で示しています。一つは「何かコアとなる価値があり、それを凝縮したもの‥削ぎ落していってコアとなる価値を残したもの」であり、もう一つは「沢山の要素/複雑な過程がありながらも、それを統合・リファインし、洗練されているもの。結果としてシンプルにみえるが、深みがあり、つくり手の苦労が見えるもの」と述べています。また「機能と利用者の願望やニーズの度合いがマッチした時にシンプルという感情が生まれるのであり、機能やコンテンツが絞られていることを示すものではない(認知科学者・Donald Norman氏)」という意見もあります。
お酒の中味のあり方にも似た一面があります。例えば酒類製品を香味の複雑さ(complexity)と厚み(body)の2軸で大きくマップ化すると、右上の象限にフルボディ・フルフレーバータイプの製品が、そしてその対極にライトタイプの代表と言えるウオッカが位置付けされます。ウオッカの品質的なコアは「軽やかなおいしさにキレの良さ」と「カクテル・ベースとしてのミキサビリティ」です。
一見、香味的には個性の幅が狭いシンプルなイメージですが、決してニュートラル(無味無臭のアルコール)あるいは単純というものではありません。ライトにしておいしいフレーバー・バランスを得るには高度な技術と繊細なスキルを必要とし、ウオッカは複雑な工程(連続蒸溜や白樺炭濾過)を経て造りこまれています。ウオッカの特徴や個性を官能評価するのは難しそうですが、並べて比較すると個々の製品の香味的な主張や違いが実感できます。興味深いことに、トマトジュースで割る「ブラッディマリー」として味わうとウオッカの特徴がむしろ浮き 彫りになります。
一方「ドライ・ジン」はボタニカル由来の強いフレーバーが特徴的な製品ですが、やはりベースにはニュートラルではなくライトなグレーン・スピリッツが用いられます。ジン特有の香りだけでおいしさが完成するのではなく、ベース・スピリッツ由来の味の充実感やジンの香りとの相性の良さが加わり飲み飽きない魅力を発揮します。いずれにせよ「シンプル」には機能的と感覚的なシンプル、主役と脇役/表と裏のシンプルなど様々な方向性や効用があり、奥が深い言葉と意味合いになっています。

■「触覚を再考してみる」高橋正二郎
長年、化粧品の官能評価に携わってきましたが、化粧品の官能評価は触覚が活躍する場面が多いことに特異性があります。そのため、触覚のことを少しは知ろうと思っていろいろ考えてみると、触覚は他の感覚と比べて、やはり特殊事情が多いことがわかりました。
例えば、朝の食事時に味噌汁をほんのちょっと口にしただけで、「あっ、しょっぱい」と言えることがあります。長い間の経験から味噌汁の塩気に対する基準値ができていて、また許容できる幅も決まっているからこそ「しょっぱい」という判定ができたものだろう。日常生活では様々な感覚について、このようなことが起きていると思われるが、触覚での実例は極めて少ない。やっと思いついたのが、お風呂の湯加減ぐらいです。同じように研究の分野でも触覚は少数派のようですが、最近はやっと触覚の研究例が増えてきています。
また、触覚は受動的で能動的に使う場面がほとんどありません。視覚や聴覚には目を凝らす、耳を欹てる、という表現があります。また、味覚には吟味、嗅覚には嗅ぐという、神経を集中させる場面があります。触覚にも探るという能動的な使い方がないわけではありませんが、腹を探るというように実にアバウトです。神経の集中とか研ぎ澄ました感覚にはまだまだ足りないところがあるようです。
私たちは喧しい環境にいることから実に多くの情報に囲まれています。その情報の五感で収集しているそれぞれの割合は、視覚83%、聴覚11%、嗅覚3・5%、触覚1・5%、味覚1%、だそうで、やはり触覚は低い割合に留まっています。また、西洋では五感にはヒエラルキーが、イエズス会のイグナティウス・ロヨラによって定められたようで、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の順になっていて、ここでも触覚は最下位にランクされています。
また、生理学での触覚の位置づけを見て、愕然としました。生理学での感覚の分類は、大分類として特殊感覚、体性感覚、内臓感覚の3つがあり、特殊感覚には視覚、聴覚、味覚、嗅覚、平衡感覚があります。触覚はというと体性感覚の中の表面感覚に分類され、視覚や聴覚などのいわゆる五感といわれる仲間から外されてしまっているのです。
どうも、触覚は付け足しのような感覚に思われそうですが、実は非常に特異な価値を持った感覚でもあるのです。それは気持ちの良さを感じる感覚としての価値でしょう。冬の寒い日にお風呂に浸かる。こんな気持ちの良いことは他に見つけられません。また、体が辛いときに背中を摩ってもらったときの気持ちよさも同様でしょう。その逆もあります。忌避感も強いのです。触覚が受動的な感覚であることに起因しているのかも知れません。特に化粧品の場合は顕著で、「何か変」というような違和感への感覚はとても敏感であることがわかります。気持ちよさと忌避感、触角は極めて優秀な総合評価の感覚であるといえそうです。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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