配信日:2015年2月3日
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■■■ 官能開発のメールマガジン
■□■ ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■ 発行者:日本オリエンテーション
■□■ 毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.31 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして、通号で31号になります。
◆INDEX
1.『匠の技、官能の技の伝承(その3)』大西正巳
今回は嗜好品の官能評価のトレーニング事例を紹介します。評価スキルの習得の考え方や養成の基本部分はどの分野のプロにも共通すると思えます。
2.『化粧品の色と香り』高橋正二郎
化粧品の色と香りは重要な要素ですが、無着色、無香料の風潮と相まって、逆風が吹き続けています。最近、少しばかり復調の兆しが見えてきた色ですが、その舞台裏を紹介します。
■『匠の技、官能の技の伝承(その3)』大西正巳
まず、JTは官能評価力のみならず成分解析力も優れた企業として有名ですが、ブレンダーの養成コースは基礎科と本科に分かれています。マイルドセブンの前チーフブレンダーの松原氏は、「基礎科では300種類以上のたばこの特徴を覚えることが目的であり、収穫された状態での品質評価に加え、実際に吸って味を覚える。
例えば『アメリカ産の黄色種・本葉・グレードAはこの味、ブラジル産の黄色種・本葉・グレードAはこの味』とひたすら吸い比べて違いを記憶する。それを毎日続け、基礎科だけで一年の受講期間を要する。本科では熱処理や香料付けされた葉を吸い、その時々での味の変化や原材料との違いを覚えることに重点を置く。コースごとに“卒業試験”が行われるが、目視と紙巻き煙草にして吸った場合の原産国、種類、グレードの識別力が試される。コースは二年半から三年で終わるが、300種類を完全に把握できるようになるまでに十年はかかる。葉の特徴を把握するのは必要条件だが、ブレンダーに求められるのは味覚の共有である。またブレンダーにとって肝心なのは、一度養った味覚と嗅覚を維持することであり、感覚を忘れないために、時間を見つけては葉を一つひとつ手にとって匂いを嗅ぎ、手巻き煙草にして吸って味を確かめる(記憶の更新)。時には口に含み、噛んでみる。絶えず味覚を研ぎ澄ませていると、ブレンド比率の一覧表を見ただけで、その煙草の味や吐き出したときの煙の状態まで予測できるようになる。」と述べています。
また資生堂の調香師の訓練について、堀田龍志チーフパフューマーは「調香師は、新商品のコンセプトにぴったりの香りを創造する香りの専門家であり、商品のコンセプトとなる言葉の一つひとつを香りに翻訳する。また新規素材の開発、製品品質評価による品質保証、アロマコロジーの研究も行う。最初は、柑橘系やスパイス系など明らかにキャラクターの異なる香りを嗅ぎ分ける訓練から始める。それが出来ると次は、オレンジとレモンのように特性の似た香りを識別する訓練を行う。自分のパレット(絵の具)に500から1000種類の香りが記憶されて一人前の調香師となる。イマジネーションを膨らませることが大切で、個人個人で身に付けるしかない。若手のメンバーにはヒントは与えても答えは決して教えない。与えられたヒントを基に、自分であらゆる素材を探し、何度も試行錯誤を繰り返して答えを見出すことに重きを置く。」と述べています。
これらの事例の本質的な部分はウイスキー/ブランデーのブレンダーも同じです。日々の官能評価を通じて検知力と識別能力を磨き、頭の中の情報ファイル(原酒や製品のフレーバー・プロファィルと香味特性のマップ)を常に拡充しています。
一方で香味的な特性の意味合いと意義を考察し、また個々の特徴の由来や成分との関係を把握しながら総合的な評価力を養い、真剣勝負(品質評価と品質開発)に臨んでいます。
■「化粧品の色と香り」高橋正二郎
色と香りは化粧品の極めて重要な要素です。ところが、無着色、無香料の名のもとに主役の座を追われて、十数年も経とうしている状況です。淋しい限りですが、実は色も香りももろ手を挙げて歓迎されるものではなかったようです。つまり「色香」というと、男を惑わす悪の権化のような扱いにされていて、その状況は昭和の歌謡曲にも登場していました。例えば、桂銀淑の『すずめの涙』では、「香水も口紅もつけないで暮らすわ〜」と、森進一の『東京物語』では、「今日からは赤い爪、見せないで暮らすわ」というような具合です。まさに、化粧品の色や香りを断つことが品行方正の証のように扱われています。さらに、『東京物語』では続けて、タバコを一日2本までと節煙まで意志表明して、念の入りようには敬服です。一方、化粧品は市民権を得ており、お仕事によっては化粧が必須になっています。航空会社のCAがろくなお化粧もしていなかったら、それこそ「金返せ」ということになるかも知れません。このあたりの男のご都合主義のようなものはギリシアの昔から変わっていないようです。それはともあれ化粧品の色や香りは、大昔から洋の東西を問わず、物議を醸すほど影響が大きかったものと思われます。
その色ですが、口紅やアイシャドウの色のように、色そのものが商品の中心価値である場合は、色の設計には数多の情報を集め、周到に議論を重ねて色が決定されます。集める情報の中心はファッション情報です。パリなどの世界各地のコレクションはもとより、コレクションより半年前に開催されるプルミエールビジョンという素材展、さらにはその半年前に発表される流行色などの情報です。流行色はイタリアのコモ湖畔に色彩トレンドの研究家はもとより各業界の有識者が集まり、侃侃諤諤の議論をします。30年ほど前から、テキスタイルやアパレルのメーカーに加え、インテリア、自動車、電器、食品などのメーカーも参加しています。そのせいか、発表する色数が増えてしまい、トレンドの示し方にキレが悪くなっているのが気がかりです。これらの情報に加え、近々の自他社品の売れ筋、お客さまの手持ちの状況などを加味して、メーキャップ化粧品の魅力的な色が決められます。
化粧品の色はメーキャップ化粧品だけではありません。スキンケア化粧品やヘアケア化粧品にも色をつけます。これは、色で効果感をサポートしたり、コンセプトと波長を合わせた色づけでコンセプトのイメージを膨らませたりする効果を期待しています。例えば、シャンプーやリンスでは、ターゲットの嗜好に合わせた色にしたり、自然由来成分を配合したものには自然のイメージの湧く着色をしたりすることもあります。スキンケアでも、栄養クリームはほんの少しだけ黄色い色づけをして栄養のイメージのサポートを狙うこともあります。逆に、洗顔用のクレンジングフォームなどの洗浄用化粧品は無垢、つまり白が良いようです。しかも、白は白でもどんな白かで、大いに思考や議論を重ねます。洗浄のイメージを全面に出すなら徹底的な白に、肌にやさしいイメージを出すなら生成りの白、というように、「まさにこの白」にこだわることもあります。
この15年ほど化粧品の世界は色ナシ、香りナシの状況で、口紅や香水などは淋しい限りでした。ところが最近、モノクロームの世界から脱する兆しが少しずつみえてきました。テレビでも、赤い口紅を誇らしげにつけている女性タレントを見ると、心なしか嬉しくなります。
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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。
■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。
■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。
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■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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