1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第34号

配信日:2015年5月12日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.34 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして、通号で34号になります。

◆INDEX
1.『感覚効用の広がり』大西正巳
商品の感覚的な魅力がますます重要になっていますが、個人と組織レベルの構想力、感覚評価力、設計・開発力そして訴求力が決め手になると思えます。

2.『実用的な尺度の決め方』高橋正二郎
言葉が決まったら言葉に目盛りをふる、尺度構成になります。尺度構成は部分的な調整はできても、全体を大まかに並べることが難しい場合があります。そのような時は一対比較法が便利です。

■『感覚効用の広がり』大西正巳
商品コンセプトの中核のひとつがユーザーサイドの効用(ベネフィット/メリット)ですが、実質的、感覚的、意味的な効用に分類されています。それぞれは密接な関係にあり、例えば感覚的な良さは嗜好性を高めるだけでなく、実質的な効用や意味的な効用を強調あるいは増幅します。また時代と共に、製品の基本機能などの革新や価値観が変容していくことにより、感覚的な価値のあり方も変化してくると思います。
900万円を超えるレクサス・スポーツの販売が伸びているそうです。車の多くは「静音」が訴求点のひとつですが、この車はある回転数を超えるとエンジン音(吸気音)を室内に響かせるように設計しています。特定のターゲットに対してワクワクする「快音」と高性能な機械を操作する実感を提供しているのだと思います。また有機ELは、ディスプレイとしては苦戦を強いられていますが、最近では照明分野で脚光を浴びているそうです。人や物に照射するとLEDは影が強く出るが有機ELでは影が出ないという性質が見直されています。「化粧が映える/人の顔にあてた時にきれいにみえる、あるいは手術用の照明に用いると手術しやすくなる」という評価が得られており、感覚的な効用開発が更に進むと考えられます。
一方、「シェーディング・ストッキング」は特別な編み方で足の両サイドに影を作り、足をスラッと見せる効果が訴求されており、光と影の関係は色々な感覚的効果を発揮しそうです。また視覚以外でも「光と影/陰と陽/表と裏」の切り口で嗜好性への影響を追求し、品質設計に応用することが大切です。香り・味わいでは、例えば酒中のフレーバー組成の些細な違いで官能的な印象は異なりますが、同一の香気成分でもその濃度と他成分との関係で快・不快の評価が分かれます。
一つひとつの香気成分は、色々な香りの印象を併せ持ち、思わぬ表情を見せてくれることがあります。また単独ではインパクトのある香気(主役)ではないものの、他の成分の引き立て役あるいはまとめ役を演じる成分も多々あります。つまり、おいしさは個々の成分や成分組成の特定の一面を我々の感覚にどう印象付けるかということで決まるため、「おいしさは無限」にあると言えます。
さて、香りは「香りの十徳」にもあるように、心理的・生理的な作用や無意識な行動に影響すると言われています。「脳には妙なクセがある(池谷裕二著)」によると、甘いお菓子やコーヒー豆のような心地よい香りを嗅ぐと、相手に対して良い印象を抱き、人に優しくなるようです。また東北大・坂井信之准教授は心理学者がニオイと痛みの関係を調査した事例を紹介していますが、甘い香りを流すと痛みを感じない、痛みに強くなるという実験結果が得られています。
今後、感覚的な探索や冒険を通じて色々な現象を嗅ぎ取り、その本質を追究することが重要になると思います。そして自社の商品は一体何なのか、商品の価値/効用や技術/スキルはユーザーにとってどれほどのものか、商品の魅力/強みを増す方向性は何かを常に自問自答し、新たな効用イメージを膨らませたいものです。

■「実用的な尺度の決め方」高橋正二郎
前号では用語についてのお話をしましたが、その次は用語の意味する特性についての尺度を決めます。実は、尺度は言葉の定義と表裏一体の関係があり、尺度を決めることにより用語の定義も明確になってきます。というのも、用語の定義は言葉だけでは不可能で、参考品を用いて表します。例えば、ある特性について、参考品Aにはあるが、Bにない、とか、CとDの両方にあるが、DよりCの方が強い、という具合です。この「DよりCの方が強い」ということが尺度の入口になっている訳で、的確な尺度づけができれば、用語の定義もより磐石なものになります。
具体的には、あらかじめ用意したスケールの上に参考品を置いていく作業になります。通常、食品や飲料などは味覚や嗅覚が中心ですので、0〜10の11ポイントスケールを用いることが多いようです。一方、化粧品などは触覚によるものは細かい尺度づけには限界があり、1〜7の7ポイントスケールを採用しているようです。
さて、実際のスケール上に参考品を並べる作業現場では、感覚によって差があります。日常生活で活躍の場の多い味覚などは、用語の示す特性の最も強い参考品と最も弱い参考品を両端に置けば、あとは残る参考品を注意深く間においていけば完成できます。ところが触覚の場合は両端を決めただけでは置ききれない場合が多々あります。特に難しいのが全体を大まかに並べることで、逆に大まかに並べることができれば部分的な調整はそれほど難しいことではありません。つまり、多くの参考品を一度に並べようとすると難しくなる訳で、2〜3個の参考品なら並べるのは可能です。
そこで、大まかに並べる方法として一対比較法をよく利用します。例えば、A〜Fの6品の参考品があるとき、A対B、A対C、A対D、というように、1品ずつの全ての組み合わせについて比較します。ここで、A対BというのはAを基準としたときのBの評価ということになります。当然ですが、B対A、C対Aという逆方向の組み合わせも全て実施します。判定の方法には2通りあって、ブラッドレイやサーストンが開発した2つの試料の単に順位づけをする方法と、シェッフェが開発した0、±1、±2というような評点データで評価する方法があります。
順位づけの方法の方が簡単に見えますが、実は評点データの方が評価しやすいようです。日本人の特性かも知れませんが、白黒だけの判断というよりも、0というニュートラルの存在も含めて評点にした方が取り組みやすいと考えられます。
あとは若干の計算処理がありますが、不思議という言葉が当てはまるほど、距離が見事にとれた形で各試料が並びます。これで、大まかに並べることができますので、あとは局所的な調整で尺度ができ上ります。
一対比較法は、このように全体の姿が捉えにくいときや、いろいろな要因が作用して全体の姿が歪みそうなとき、などに利用すると便利かと思います。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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