配信日:2015年8月4日
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■■■ 官能開発のメールマガジン
■□■ ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■ 発行者:日本オリエンテーション
■□■ 毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.37 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で37号になり、4年目に入りました。
◆INDEX
1.『匠と官能評価力』大西正巳
官能力と匠の技を発揮するプロは、官能品質とつくりとの関係性を把握・整理する力、新たなイメージを描く力が優れていると思います。
2.『感覚の行間』高橋正二郎
新しい感覚は現在使用している言葉では、言葉と言葉の行間に入り込んでしまい、表すことができないことがあります。また、行間の存在が確認されても言葉にならないと感覚として特定できたことにはならないようです。
■『匠と官能評価力』大西正巳
五感の鋭さや官能力が光る色々な分野の達人の固有の技には驚かされます。今回は独自の聴覚を磨いた達人を通じて「官能のプロとは」を考察するための事例をいくつか紹介したいと思います。
まず効果音の父と呼ばれた音響演出家・和田精氏が採用面接を行った時のエピソード(読売新聞:2015.3.3)は大変興味深いものです。和田氏は受験者の声を聴いただけで、奥歯が1本抜けている人、扁桃腺を切り取った人、あるいは親の出身地を言い当てたと言われています。また、東京都水道局・笑喜久文氏の水道配管からの漏水を判断する奥技も官能評価のあり方についての参考になります(プロフェショナル・仕事の流儀:NHK 2015.5.23)。棒状の集音器具から伝わってくる音を聞き分け、漏水の有無や場所を特定する仕事を30年間続けてきた笑喜氏は「漏水音は同じようなものはあるが、同じものはない」と述べています。地中から伝わってくる音は水道管の材質・太さ、埋設場所の環境により微妙に異なるそうですが、様々な音の質が頭の中に「官能マップ(データベース)化」されているため総合的な評価が可能になるのだと思えます。そして単に感度良く検知・識別し、異常を発見するだけでなく、漏水を修理して仕事が完了します。つまり官能的な評価に責任を持ち、「だから何なのだ/どうするのだ」という次なる目的を達成する/成果を生み出すのがプロということになります。
一方、左官職人の親方も「音をみる」という感覚を大切にしています(小林澄夫の左官のいる風景:朝日新聞)。こねるモルタルのミキサーの回る音で砂が多いか少ないかが分かり、また壁を塗るコテの音やちりぼうきの音を聞くだけで仕事のはかどり具合が鮮明に見えてくると言います。左官の仕事を10年続けると体つきや姿勢そして身のこなしも「様になり」、音も見えてくるそうです。材料づくりから下塗り、中塗り、上塗りと手間と時間をかけるのが左官の仕事ですが、大工よりも一見地味にみえます。しかし左官の親方は感覚とスキルを駆使して確かな仕事を残し、その仕事を後代に伝えていくことに徹すると述べ、仕事に対する誇りを感じます。
また古美術鑑定家の中島誠之助氏は、磁器を鑑定する際の評価法のひとつとして叩いた音で傷の有無や焼き具合をみると言います。右手では強すぎるため左手中指の第二関節を使って叩き、金属的な音、鈍い音、濁った音を官能的に聴き分けますが、大量に買い付ける時の検品を瞬時に行う技となっています。
いずれの達人も官能力という道具を黒光りするほど磨き、その道具と独自のスキルを組み合わせて課題の発見と解決(商品の評価、企画、開発・創作など)を図る点が共通しています。つまり官能情報から商品(品質)と製造工程や技術的な条件との関係を体験的に見出し、そのデータベースを活用して顧客/クライアントから十二分に評価頂けるだけの具体的なハードやソフトのアウトプットを生み出すのが官能のプロだと思えます。
■『感覚の行間』高橋正二郎
化粧品の使用感は、化粧品を肌に載せて、のばしたり、すり込んだりしたときに起きる感覚で、化粧品の価値に関与する重要な特性です。化粧品の生業に携わる者は、この使用感を少しでもお客さまのお気に召すようにと日夜奮闘している訳です。そのためには、市場に出ている商品に絶えず触れておくことが大切で、新しい感覚や未知の感覚に対応した評価力を磨いておく必要があります。たまに「あれっ」という感じに出会うことがあります。このような新しい感覚に触れたとき、「新しい感覚に出会えた」という少し高ぶるような気持ちと、「見落としてはいなかっただろうか」という後ろめたい気持ちが交錯します。軽い使用感の乳液だったのですが、どちらかというと頼りないほど軽めでしたが、肌に置いてのばすと一味ありそうという感触がしました。
このようなときは、すぐさま丁寧に官能評価をしてみるのですが、なかなか一筋縄では新しい感覚はとらえることはできません。というのは、現在使用している実用一点張りの評価系の言葉では当てはまる評価用語はなく、用語と用語の行間に入り込んでしまっているようです。そこで、プリミティブな評価用語で構成した評価系でリトライしてみました。つまり、実用的な、<のびのよさ>、<しっとりさ>、<べたつき>という言葉ではなく、重い⇔軽い、新しい⇔懐かしい、華やか⇔地味、女性的⇔男性的、というように抽象的な言葉を準備します。言葉が抽象的になっていますので、五感のすべてに使用できますが、その代わり言葉の数は増やすことが必要で、少なくとも30以上が必要になります。この場合も60程度の言葉を用意して臨みました。
まず、SDプロファイルを描きます。新しい感覚に対して反応が顕著に現れた評価用語をみると、重い、強い、ぼんやり、にぎやか、という用語で、解釈は難しそうです。それどころか、化粧品としては忌避感につながりかねない感覚です。それでも新しい感覚の存在は確認することができました。しかし、存在の確認だけで止まるのではなく、どんな感覚なのか、もう少し正体らしきものが知りたいところです。せめて、どの行とどの行の行間なのかを示して欲しいものです。
そこで、多変量解析の力を借りて分析をしてみました。
多変量解析で処理すると、重い⇔軽い、新しい⇔懐かしい、華やか⇔地味という語群で構成された官能空間の中に、現在の評価用語である<のびのよさ>、<べたつき>、という用語と、正体を求められている「新しい感覚」が併せてプロットされて示されます。すると、問題の「新しい感覚」は思ったとおり、新しい官能空間では端っこの方にプロットされていました。他の官能用語との位置関係を見ると、一番近くにある官能用語は<べたつき>で、ややあって<皮膜感>でした。ということは、新しい感覚は<べたつき>と<皮膜感>の行間にあることがわかりました。
ところがこの先、困ったことに陥ります。行間から先へ進むことができないのです。行間にあることがわかっても、言葉にならないと感覚として特定できたとは言えません。どんな言葉が適切だろうかと悩みましたが思い浮かばず、結局、新しい感覚にはなりえませんでした。
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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。
■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。
■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。
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