1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第46号

配信日:2016年5月10日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.46 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で46号になりました。
※事務所が平河町へ移転しました。静かに引っ越して、すぐ稼動しました。

◆INDEX
1.『官能結果の定性的な記述』大西正巳
官能評価はQDA評価だけでなく、定性的な評価(特徴の記述)も大変重要です。

2.『リピートに結びつく官能特性を大切に』高橋正二郎
最近の商品の官能設計は前掛りで、味や香りなどが店頭でわかりやすくなっていますが、リピートにつながる設計にはなっていません。

■『官能結果の定性的な記述』大西正巳
ウイスキーやブランデーのブレンダーが用いる香り・味わい・後味に関する官能用語数は90〜100語だと思いますが、QDA評価のフレーバー・ホイール軸にはその中から頻度が高い用語を選定しています。ブランデーはフルーティーで華やかな香りが多いことと繊細で豊かな熟成香味に対する用語や感性的な表現も多いために全体の評価用語数は多くなります。海外のブレンダーや製造責任者と議論を重ねて「QDA用語集」を作成したことがありますが、QDAの方法論や用語についての理解と共有化に大きな問題はありませんでした。ただ酒類の歴史や文化、そして個人の(食)生活が反映していると思いますが、官能の仕方や感じ方に、そして評価用語の意味合いとウエイトの置き方に差異も見られます。
さてウイスキーやブランデー、ワインなどによく見られますが、物語風に特徴を表現するのも官能評価の魅力になります。例えばスコッチのテイスターが国産のミズナラ樽熟成のモルトウイスキーを初めて評価した時のコメントですが、『このウイスキーの色は磨いたマホガニーの色、あるいは少なくとも深い琥珀色。素晴らしい泡が見られる。最初の香りは重く、強い香水をつけたよう‥大叔母さんと一緒にオペラ座のボックス席に座ったような気分‥である。リキュール漬けのプラムやブラックカラント、プルーンに家具のつやだし剤の香りが感じられる。口当たりはベルモットのようで、滑らかで甘く、粘り気があり、フィニッシュと後味にはひと筋の煙がある。水を加えるのはどうかと思ったが、水ともうまく調和した。最初は酸味が出たが、その後フレッシュ・マホガニーが現れ、それからバタースコッチに変化した。バタースコッチ味は、非常に大きくて滑らかで調和の取れた口当たりの後に一瞬現れる。フィニッシュの余韻は中程度だが、後味はとても長く続く。』と述べています。スコッチの評論家にとって驚きの中味であったと思えますが、製品の華やかな香気と深い味わいの印象が良く伝わってきます。
また「匠の技」に記されている水のテイスター・前田學氏は超人的な嗅覚感度を持ち、ごく僅かな匂いをも嗅ぎ分ける達人ですが、やはり詩的な表現が光ります。単一物質である「水」の質を表現するだけでも何種類もの感性的な「利き水」用語で評価します。水をゆっくりと嗅ぎながら順に言葉に置き換え、瑞々しさ、潤い、艶、しっとり感、透明感、緑色感、静寂、清澄、爽やかさ、霞、夜明けの空気、露、水玉、山紫水明、清涼味感、響き、湿り気/乾燥などで表現していますが、評価シートには「薄く、軽くて、水面に粉雪が融け込むような淡い水臭気」のように記されています。水を利く時は、その瞬間の水の表情だけでなく、水の生まれと育ち(ヒストリー)を立体的な物語として見ていくそうですが、これは酒類の官能評価も同様です。それぞれの感性用語と実際の水質の関係も体験的に把握し、独自の用語体系が確立されているものと思います。このような官能評価の定性的な記述もQDA評価の定量的な画も結局はどれだけ特徴を正確にとらえ、分類しているかになります。いずれも検知力、識別力、表現力そして豊富な五感的情報に裏打ちされた「官能力と評価力」が決め手になると言えるでしょう。

■『リピートに結びつく官能特性を大切に』高橋正二郎
前号で取り上げた化粧品の使用感の例は、店頭で販売員がテスターを使って説明するのに都合の良い使用感の設計になっている、ということでした。化粧品の使用感は食べ物や飲み物では味や香りや食感に相当する価値で、お客さまの嗜好を左右する重要な価値です。その使用感を伝えるために敢えて前半勝負の使用感になっているものでした。
この前半勝負の使用感は当初からねらったものなのでしょうか。真実は関係者にお尋ねしないとわかりませんが、どうもそうではないと思われます。お客さまの声を、要望を反映させようとして、お客さまに至近距離で接している販売員の意見を忠実に反映した結果、前半勝負の使用感になったものと考えられます。この商品は幸いにも後半の使用感も際立った欠点や不手際もないため、前半勝負が幸いして売上げを伸ばした珍しい例です。ところが市場に出回っている多くの商品は前掛りで、第一印象重視に偏り過ぎの傾向がとても心配です。
食べ物なら、口へ運ぶときから飲み込むまで、実にさまざまな形で味や香りや感触を楽しみます。香水やオーデコロンなどのフレグランスも最初のトップノートだけではなく、ラスティングの香りまで楽しむことが大切かと思います。化粧品のスキンケアでも、前半勝負ののびや肌へのなじみに続き、肌のみずみずしさやしっとりさなどスキンケアの効果に直結する官能特性を経て、忌避感の最大要因のべたつきも現れてきます。そして、ひきしまり感や皮膜感、最後には翌朝のしっとりさの確認ができて「次もこれに決めた」と、いうようにリピートになるわけです。このようにスキンケアは非常に長い官能評価の過程があります。それを無視して、ほんの10数秒でわかるような特性だけで全体の評価としてしまうのは、どうみても暴挙としか思えません。
このようなことは化粧品だけに起きていることではありません。購買頻度の高い食品や飲料などの感性設計は押しなべて前掛りで、すぐ感じられる評価変数ばかりに気持ちが行き過ぎています。確かに前倒しの官能設計にしておけば、店頭での推奨には便利かもしれません。しかし、これではリピートに結びつく感性価値にはなりません。この先、愛用固定のお客さまをしっかりと確保するには偏りのない官能評価に基づく、後味や後香りにも重点を置いた切れ目のない感性価値設計が求められます。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを33年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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