1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:商品開発のセオリー スパーキング

34. 商品開発・成功体質をつくる -9「商品開発の想いづくり」

新商品が成功する決め手

新商品が成功するポイントは、魅力ある商品、商品コンセプトに基づく売り方開発、そしてタイミングが重要ですが、私は、新商品成功の決め手は「商品に対する想いづくり」だと考えています。
ぜひこの商品を社会に出したい、社会の役に立ちたい、笑顔で、満足して使って欲しい、そんな「想い」が重要だと考えています。
しかし、なかなか「想い」が作れないのが現状です。
商品のライフサイクルが短く、なんでもかんでも新商品を出さなければならない。予算が達成できないので、営業から新商品の催促で、あまり考えないで出さなければならない新商品。また、社会的使命感が希薄になってきている商品開発などの現状があります。  「想い」が希薄になっている。
新商品成功の最後の決め手は「想い」の強さです。
特に新規事業の成功はマーケティングだけでは成功しない。

創業者の想い

創業者の方々の話を聞いたり読んだりすると、「想い」がなければ成功しない、という話をよく聞きます。

本田宗一郎氏の「想い」

1991年8月7日の「天声人語」に本田宗一郎氏の話が載っていました。
「手のひらを写生した1枚の絵がある。世界のホンダを作りあげた本田宗一郎さんの左手だ。その無骨だが神経の張りつめたような手に、数え切れないほどの傷跡が刻まれている。それは、そのまま、この異能職人の一代記だ。右手に道具をもつ。左手で物を支え、受ける。だから左手はいつも道具に襲われて生傷は絶えない。人差し指と親指の先は、ハンマーでつぶし、カッターで削り取り、爪が何度も抜け変わって、ついに右手よりも見るからに短くなってしまった。キリや旋盤の刃が表から裏に突き抜けた傷でさえも、チュッチュッと傷口から雑菌を吸い出しておしまいにした。車と初めてであったときにも、この手が動いたものだ。地面にしたたり落ちた自動車の油を手にまぶして、胸一杯においをかいだ。そして、いつかは車を作ってみたいと思ったのは小学2,3年生のころ。その手がいわば無から有を生み、成し遂げたことの大きさは、本田さんの死去を悼む声が伝えている通りだ。」 「想い」の大きさと、深さを感じます。だから、魅力的な、喜ばれる車が生み出せるのではないでしょうか。

ゲイル・ボーデンの「想い」

アメリカのボーデン社がアイスクリーム、スライスチーズで日本市場に参入したときに、導入のお手伝いをしたことがありました。
その時、ゲイル・ボーデンが企業を興したときの話を聞きました。
「赤ん坊の泣き声が一つの産業を興した。近代乳業の父」
「私は試みに失敗した。再び三たび試み、そして成功した」ゲイル・ボーデンの墓石にこう刻まれているそうです。
彼の言っている成功というのは、コンデンスミルクの製法の発明のことです。彼の発明した、ミートビスケットがロンドン博覧会で金賞を授与され、その帰国途上のこと、長い航海を続ける船室では、移民の赤ちゃんが泣き叫んでいました。そしてその数日後に多くの赤ちゃんが死んでいきました。船に飼われていた牛が疫病にかかっており、赤ちゃん達がその汚染された牛乳を飲ませられていたのが原因でした。この赤ちゃん達の災難にショックを受け、長い間を経ても新鮮・純良で、栄養価を失わない衛生的な牛乳加工方法の開発に没頭した。1857年ゲイル・ボーデンによって創立したボーデンの経営理念は、安全で清潔、厳重な品質管理によって、天然自然の材料と味覚を顧客に届けることで貫かれています。
赤ちゃんの死という原体験をもとにした「想い」を成功に結びつけた結果です。
その他、江崎利一氏の、グリコ開発の「想い」、花王が化粧品事業に参入したときの、当時の社長丸田さんの化粧品事業への「想い」など、「想いの」強さが成功へ導いています。

「想い」を育てるには

「想い」とは生活原体験を深めることです。身近な生活体験を大事にすることでは。自分の両親に飲んでもらう飲料を作ろう、あの人に笑顔で使ってもらえる商品を作ろう、こんなことからも「想い」は生まれてきます。
ある企業の商品開発プロジェクトに参加したとき、興味ある経験をしました。
まず最初の開発ステップはプロジェクトのメンバー全員で、開発する商品の「想い」を語り尽くすことでした。
こんな人にこんなように使ってもらい、喜んでもらえる商品を、社会にこんな貢献をする商品を、腰痛の人にも楽々使える商品を、いろいろな「想い」が吐露されました。
私が商品開発のコンサルティングをするときの商品への「想い」は、 「だいじに作って、だいじに使ってもらえて、だいじに捨ててもらえる商品を開発する」ことです。
私は、クラークス社の靴を愛用しています。セミナーの時、5~6時間立って話をしていても疲れを感じない靴です。捨てるときには、お酒をかけてご苦労さんと感謝をして写真にとって捨てています。こんな商品を開発したいと「想い」を持っています。
最後に、みなさんへの問いです。あなたの企業の「想い」は。そしてあなたの商品づくりの「想い」は何ですか。考えてみてください。

日本オリエンテーション 松本勝英

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