1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第26号

配信日:2014年9月2日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.26□■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンも、3年目に入りました。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同 高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、3年目の2回目は通号で26号になります。

◆INDEX
1.『総括的用語の意味合い』大西正巳
前号の「シンプル」に続き、総括的/情緒的な言葉の中から「ラグジュアリー」と「プレミアム」についての参考意見を拾いました。

2.『触覚のおもしろさ』高橋正二郎
存在を確かめるには、まず見ることですが、その次は触れることになります。触覚は、視覚にも優る存在の確からしさを実感できる感覚といえそうです。

■「総括的用語の意味合い」大西正巳
「ラグジュアリー」や「プレミアム」という言葉で表現される製品が目立ちます。
その意味はある程度理解できますが、様々に定義化が可能であり、時代の価値観と共に捉え方も変化するようです。
ローランド・ベルガー社は、「ラグジュアリー・ブランドの根幹はデザイナーやメゾンの世界観であり、そのブランドでしか味わえないオンリーワンの世界観を築くこと、作り手の主観を徹底的に磨き上げることが重要である。一方、プレミアムはラグジュアリーとマスの間に位置し、基本的に従来のマーケティングの考え方(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)がブランド戦略の中心にある。」と述べています。そしてベイン・アンド・カンパニー社はラグジュアリー・ブランドを更に最高級(アブソリュート)、高級(アスピレーショ ナル)、エントリー高級(アクセシブル)に分類しています。一方、プレミアム(酒類市場)の事例では、場面・状況ニーズと飲用ニーズ(機能/エモーション)の軸で「ハレ」「マス」「こだわり」をキーワードとする製品群にマップ化されています。プレミアムな製品は、既存の市場(自社製品、顧客、競合)を参考にコンセプトを立案することが多いため、プレミアム感(中味、外身、機能性、つくり、場面など)と優位性や特徴をQDA的にビジュアルに描き、設計していく必要があります。こだわりの逸品、伝統の技、老舗の力、極上の味という枕ことばだけでは伝わらないと思います。
ラグジュアリーには一貫した思想/哲学、クラフトマンシップがあり、伝統と革新がバランスよく積み重ねられています。従って造り手の全人格的な要素と「らしさ」が反映した長期育成型のプロダクトアウトのイメージです。希少性は魅力のひとつですが、モノにより高価格というのがコストではなくパフォーマンス側に位置付けられることがあります。抽象的なビジョンや世界観、あるいは価値/魅力などは全体像と目指す姿を共有し、その上で商品のQDAプロファイルを五感的に描くこと、そして達成案を具体化することが大切です。
もうひとつ、シャネル(株)コラス社長の「ラグジュアリーというのは、何万年も前から人間が求めてきたものであり、人間の心の豊かさを求める行為です。心が安らいだり、楽しみを発見できたりする状態のことがラグジュアリーの本質だと捉えています。人によって、それが何千万円もする車を買うことや、時間が空いた僅かな時間にきれいな庭を眺めることかも知れません。見栄でもなければ、金額でもなく、何かときめくことを見つけるのがラグジュアリーです。別の空気が流れたり、ささやかな憧れに歩み寄れたりすることです。定義ができれば応用 ができます。あなたが手がけている仕事にラグジュアリーの視点を入れていくとどうなるでしょうか」という意見も参考になります。モノのラグジュアリー、心のラグジュアリー、いずれも「本質」の具体化や「効用」のデザインが大切になると思います。

■「触覚のおもしろさ」高橋正二郎
「触れないでください」という貼り紙をよく目にします。素晴らしい展示物には付き物のようです。一見は百聞にしかず、といわれるように見ることは非常に確かな認知行為なのですが、見てわかると、次は触れてみたくなるのは人情というものでしょうか。やはり実際に触れることは、見ることに優る認知行為なのかも知れません。
前回、触覚は生理学的な分類では視覚、聴覚、味覚、嗅覚などの特殊感覚に入らず、体性感覚の表面感覚に位置づけされるということでした。その表面感覚には、触覚に加え、圧感、温感、冷感、痛感などがあり、これらは皮膚感覚として扱われることが多いようです。皮膚感覚は、触覚、圧感、振動感、温感、冷感、痛感などのほか、かゆみ感やくすぐったい感じなどの感覚もあり、さらに触った物体の表面形状についての感覚も報告されています。これらの感覚は、元をただせば危険予知のためであり、環境の変化や天敵の存在を察知するためであることがわかります。かゆみ感は有害物質が降り掛かったこと、また、くすぐったい感じは小動物がからだについたことを知らせる感覚で、これらは引っかき反応と対になって対処していると考えられています。
これまでの皮膚の研究によると、薄い皮膚の中には神経の末端を始め、パッチーニ小体、ゴルジ−マッツィオ小体、メルケル小体、ルフィイニ小体などの受容体があり、これらの反応と皮膚の変形などにより、さまざまな情報が伝えられるとのことです。さらに最近の研究によると受容体の新たな働きの解明も進んでいます。
冒頭の「触れる」に戻ってみます。対象物に触れますと、まず実体としての形状の確認ができます。そればかりではなく、すべすべした、ぐちゃぐちゃした、ざらざらした感というような表面の感じや、温かい、ひんやりという温冷感なども同時に感じることができます。さらに、触覚などの皮膚感覚はどんなものかという感覚に留まらず、触れた本人に有益か有害かというような受容性の判断までしてしまいます。つまり、好き・嫌いというような判断まで同時に行います。もっとも、この段階になると感覚の領域では済まなく、知覚、認知という脳の働きの動員も必要ですが、その働きが感覚と常に連動しているのが皮膚感覚の特徴と思えるのです。この辺りの状況が、触れることを強いることになり、「触れないでください」の貼り紙が絶えない所以かと思います。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第26号(2014/09/02) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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