1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第27号

配信日:2014年10月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.27□■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンも、3年目に入りました。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同 高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、通号27号になります。

◆INDEX
1.『官能力とメーカーの地力』大西正巳
どのような時代になっても「官能(スキル/評価/開発)」はメーカーにとって必要不可欠な機能であり、常に超一流を目指すべきです。

2.『不明の多い触覚も解明のときが』高橋正二郎
触覚は部位差が大きく、また嗜好との強い連動のある特異な感覚で、最近とみに研究が進んでいます。これらが解明されることを想定して、現状の官能評価も再考が必要かと思います。

■「官能力とメーカーの地力」大西正巳
メーカーのビジネスシステムの中で、生産機能/自社工場を持たずに外部委託するモデル(ファブレス)が少なくないと思います。また販売のみならず総務/経理のような機能も専門業者に委託可能になっています。その中で最後まで自社内に保有すべき機能が企画部門とR&D部門であると強調されてきました。しかし最近ではクラウド・ソーシングのように、テーマ毎に必要なスペシャリストやスキル、ノウハウを幅広く外部から調達する動きも見られます。更には有力デザイナーやプランナーに企画、開発から広告までのブランドづくりの全てを委託する企業や商品も話題になっています。これらは目標を効率的に達成する戦略スタイルのひとつではありますが、飲料・食品・嗜好品等の感覚重視型商品のメーカーにとっては「官能(スキル/評価/開発)」は生命線であり、常に自前であるべきだと思います。
「商品を創る前に人をつくれ」と言われてきましたが、官能評価/官能開発型の人材をシステマティックに育成し、また暗黙知と形式知を磨き続けることが大切です。商品の評価・企画・設計・開発・生産を進める中からメーカーとしての「スピリッツ」や骨太な「らしさ」も醸成されるものだと思います。官能人材は品質検査や生産管理の役割を担うスペシャリストとしてだけでなく、商品のコンセプトづくりや品質のデザインに意欲とセンスのある官能開発型人材は品質の設計・開発部門に適しています。またその間に特性に応じて積極的に企画や生産現場の経験も積み、プロとして多様なスキルと感性を養いたいものです。同時にリエゾン的な役割により部門間の壁が薄くなり、戦略課題の共有化も一層進むと期待されます。
品質設計・開発現場と生産現場で得られる様々なデータ(官能評価、成分評価、工程評価など)は定性的および定量的な情報/ノウハウが満載された言わば「ビッグデータ(宝の山)」です。そこから品質特性やQDAプロファイルと製造技術/条件との相関関係や因果関係を紐解き課題を発見することに意義があります。
三現(現物・現場・現状)を自らの感覚・感性で見る、解析する、考えるというのは他に委ねられない役割です。前に述べた官能特性と製造法/製造条件の関係を示す「品質−技術マップ」もそれに含まれますが、品質と嗜好とつくりの方法論を結び付ける独自の見方やスキルを構築することにより企画・設計・開発の総合力が増していきます。そのマップとスキル(操作条件等)がなければ、魅力的な商品を企画し、目標品質(イメージQDA)を描いてもそれを実現するのは難しく、絵に描いた餅になります。研究開発・生産機能は「コストセンター」としての位 置付けですが、本質価値と付加価値を定めて具体的な商品の姿につくり込み、利益を生み出すという使命があります。つまり「プロフィット(ドライブ)センター」としての気構えと行動も必要になりますが、インフラとしての官能評価力と官能開発力がそれを左右すると思います。

■「不明の多い触覚も解明のときが」高橋正二郎
『触感をつくる』(仲谷・筧・白土著:岩波科学ライブラリー187)というおもしろい本に出会いました。その口絵に「錯触覚」という聞き慣れない錯覚の例が載っていたのです。錯覚というと錯視が思い浮かぶように視覚にかかわることが多いのですが、触覚での錯覚なのです。口絵には魚の骨のような図形が一様な厚みで示されているのですが、これが触覚に錯覚をもたらせます。図形の表面をゆっくり触れたのではどこも同じ平らに感じますが、背骨の部分を背骨の方向になぞると、これは不思議、背骨の部分が凹んで感じるのです。触覚や皮膚感覚の研究が進んでいることは漏れ伺っていましたが、このような例を見ると、いよいよ研究も調子が出てきたなと感じます。
さて、私どもの化粧品の官能評価は視覚や嗅覚も活用しますが、何と言っても触覚が一番活躍します。触覚は身体全体の皮膚に分布していて、その感度は部位により差があります。中指の先や唇などは鋭敏ですが、背中やお尻はそうではありません。顔は比較的敏感な部位ですが、それでも指先のもつ分析的能力には及びません。しっとり感やひんやり感は頬の上で十分評価できますが、クリームなどの伸びの具合などは指先とのコンビネーションで評価していると考えられます。というと、何も顔を使わなくても指先で評価をすれば手軽で良いではないか、と言われそうです。ところが総合評価的な内容になると該当部位でないと評価はできませんし、総合評価的な評価は皮膚感覚の得意とするところで、分析的評価が苦手な部位は総合評価向きなのです。ですから、お客さまの好き・嫌いに直結する評価は使用部位での判定が必須であり最適とでもいえます。特に重要なのは忌避感で、「ちょっと変」とか「何かおかしい」という感覚は鈍いといわれている部位の方が鋭敏なのは興味ある現象です。同じように湿布剤などは使用部位が腰あたりですので、指先と比べると鈍いとされる部位ですが、やはり気持ち良さは使用部位での評価を欠かすことはできません。また、良くないという忌避感も使用部位ならではの評価となるので、致命的な欠陥を未然に防ぐためにも避けて通れない評価です。
顔の感覚は皮膚の生理的な条件も加わって男女間に性差があります。化粧品の場合は洗顔料が顕著で、特に刺激に対する忌避感には大きな差が出ます。男にはよく落ちる気もちの良い洗顔料であっても、女性には刺激を感じるようで、「あっ、これダメ」と直ちに忌避感を示してくるときがあります。この感覚は男にはわかりにくいので、所詮、男の皮膚は「ツラの皮」なんだなと感じるときでもあります。
分析的評価を優位にみる傾向があるため、触覚や皮膚感覚の特異な能力を軽視することがありますが、根源的な感覚をもっと有効に活用しないことには真の意味での官能評価にはならないと考えます。触覚の研究が進んでくると、忌避感との連動や部位の差などが解明されてくると思います。現在のところはわからないまま進めているところが多くありますが、解明を前提に現行の方法を精緻に再考しておく必要がありそうです。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■■■ 第27号(2014/10/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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