1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第12号

配信日:2013年7月1日

‥‥…………………………………………………………………‥‥・・・
■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
・・‥‥…………………… by Japan Orientation ………………‥・・・

■□SDPメールマガジン No.12□■
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英 の共同メルマガです。

◆INDEX
1.『QDA評価の活用課題』大西正巳
QDAは商品評価や商品開発の道具のひとつですが、アウトプット志向で道具そのものとスキルも磨き続けると、QDAの活用範囲が更に拓けてきます。
2.『クールジャパンから世界を見る』高橋正二郎
クールジャパンという魅力的な取り組みがあるが、世界の優れた感性価値を逆に称賛することにより、総本山としての位置取りができそうだ。翻って、企業で感性価値の開発に身をやつしている方も、世界の感性価値を表彰するつもりで優れた感性価値を捜してみるのも、一興を超え、意味あることと思える。

■「QDA評価の活用課題」大西正巳
QDAが品質評価や管理の一手段として多くのメーカーに導入されています。また商品開発(特に感性価値設計・開発/官能開発:SDP)の武器としてのニーズも高まっています。自他社製品のQDA評価や成分評価の結果は官能特性や成分特性のプロファイルとして品質評価部署が管理していることが多いと思います。しかしこのようなドキュメントは一部署だけではなく、本来は「商品評価」/「商品開発」のための戦略情報として企画・設計・開発部署で共有すべきだと思います。ただ商品戦略を練るには製品の品質評価データのみならず、そこから得られる品質特性上の強み・弱み・特記事項、そして香味や機能、市場や顧客に関連した軸のポジショニング・マップ、業界情報(宣伝/広告、販促など)もセットで盛り込む必要があります。そして「だから何なのだ、自社の打ち手は何か」という意見や方向性も記し、部門間でマーケティング戦略上の議論が活発に行える内容にすることが大切です。
QDA関連の今後の課題としては、まず「グローバルQDA」とでも言うべき国内外の品質評価と管理システムの拡充になります。多くのメーカーは海外の生産、販売、物流のネットワークを広げてきましたが、それに伴いグローバルな品質保証/管理、更には商品開発機能の強化が求められています。その際、国内の設計・開発・生産が保有する品質評価とQDAの方法論、そして管理システムを海外に単にスライドさせるのではなく、国内外の官能キーパーソンと評価チームの全員が納得のいく方法でグローバルなQDA評価システムを構築するという考え方が重要です。各国のメンバーは定期的に集まり、評価用語のすり合わせと意味合いの明確化、用語の一覧表と翻訳表の作成、標準サンプルと基準値の設定、共通サンプルによる継続的な評価トレーニング、技術や成分知識の共有などの課題をクリアしていく必要があります。ややバーは高いもののグローバルな取り組みを通じて品質理念や価値観を共有する絶好の機会となり、達成感も得られます。またそれぞれの国の伝統と飲食文化、嗜好/香味の優先度等についての相互理解が深まり、更には商品のみならず固有スキルや開発スタイルのリバース・イノベーションも期待できます。
次に現在のQDAの展開課題ですが、キーワードは酒類や食品の「ダイナミックQDA」になります。現在のQDAはある時点における「静的(スタティック)」な官能特性の定量的な描写ですが、飲食中のダイナミックな官能変化をQDAで把握し、ビジュアル化することが狙いです。飲用時の時系列的な香味変化(先香り〜後味)や食品の咀嚼中の香味・食感の消長、つまりおいしさの変化や新たな発現の把握などが一例です。官能強度の変動や軸そのものの変更が伴うこのような官能プロファイルの流れを示すには3次元的な描写や音声入力のテクニックが必要かも知れません。官能評価の負荷も増えますが、この動的なQDAを的確に示すことが出来れば知覚品質の実態に即した評価が得られます。そして自他社製品の品質特性の解析に深みが増し、新品質の設計のみならず技術開発課題の発掘やその評価のレベルアップにつながります。

■「クールジャパンから世界を見る」高橋正二郎
クールジャパンという取り組みがあります。スイーツを取り上げるなど、おもしろい方向に眼が向いてきたなと感じていました。美味しい味、素敵な香り、気持ちの良い感触などが、お国から後押ししていただけそうになってきたようで嬉しい気持ちです。だが、5月の中頃、官製クールジャパンの行き先案じ、「歌舞伎、茶道、佐渡おけさのPRで終わってしまいそう」と警告の記事を読み不安に駆られました。日本からの発信にだけに気が一杯になっているので、お決まりのことになってしまうと思われます。
クールジャパンの行き先として、さきほどのスイーツのような感性価値を対象の中心に据えたら本当に素晴らしいと思いますが、一方的な発信に腐心するのではなく、世界の感性価値を取り上げ、称賛することはさらに素晴らしいと考えられます。例えば、黒沢明がカンヌ映画祭で賞を獲れば、カンヌの正確な場所も知らない人もカンヌを知ることになり、有名になります。さらに、カンヌは映画が盛んで、映画の総本山という認識になるでしょう。そこで、クールジャパンも『クールジャパン国際賞』なる賞を創って、世界中の優れた感性価値を「日本が表彰」してはいかがなものでしょうか。つまり、日本は感性価値の目利きとしての位置をとることになります。発信だけではなく、世界を受け入れる度量が、権威の獲得にもなると考えられます。世界には文化価値に限らず、さまざまな賞があります。その好例が、ジェームズ・ワット国際メダルという工業分野での功績を称える賞です。日本からの受賞者は3名で、新幹線をつくった島秀雄、本田宗一郎、豊田英二の顔ぶれから賞の確からしさ、権威が窺えます。アニメの殿堂のようなハコモノではなく、若干の基金で『クールジャパン国際賞』を推進していただきたいと思います。
翻って、企業で感性価値の創造や開発に心を砕いておられる方々も、この機に世界に眼を向けてはいかがでしょうか。ただクールジャパンを高みの見物と洒落込んでいる暇はないと思います。同業、もしくは同業に近いに分野で、これはという優れたものをノミネートし、まずはアドマイヤしてみることです。これにより、世界の優れものや標準を知ることや、進み方の慣性力や方向性がつかめることになるでしょう。また、ともすると感性価値の評価能力に長けた日本のお客さまと開発者・研究者の心意気が相まって、日本独特の特殊化や特異化にのめり込み、気がついたらガラパゴスということが起きますが、ノミネートによって事前に避けることや修正することも可能になるでしょう。

………………………………………………………………………………………………………………………
◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
………………………………………………………………………………………………………………………
◆プロの知恵によるカウンセリング、コンサルティングを受けてみませんか
 ・SDP研究所の官能開発のカウセリングを導入してみてください。
 ・お客さまの共感を呼ぶ感性価値の溢れた「生活DELIGHT」の商品アイデアを提供します。
………………………………………………………………………………………………………………………

≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

■■■.......................................................................................‥‥・・
■□■「SDPメルマガ」
■■■ 第12号(2013/07/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
・‥‥.......................................................................................‥‥・・

前号 次号