1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第23号

配信日:2014年6月2日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.23□■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同 高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、回を重ねて23号になります。

◆INDEX
1.『感覚、感性、匠の技』大西正巳
官能力と匠の技については色々な切り口で報告されていますが実に幅が広く奥も深いテーマです。多くの場合、「感覚・感性・技」は一体になっています。

2.『未知の感覚と言葉』高橋正二郎
折角思いついた新しい感覚も言葉にならないうちは認知できません。新しい感覚の開発は、その感覚に相応しい言葉を探り当てる言葉捜しに他ならないのです。

■「感覚、感性、匠の技」大西正巳
このテーマを掘り下げるには出来るだけ多くの官能実例に学び、また匠の世界の名人/達人の感覚や技を直接感じとるのが大切だと思います。今までに「現代の名工」として数千人が表彰されていますので、これはと思う名工/職人を訪ねてみる、また様々な芸術家/音楽家やデザイナーの感覚・感性に肌で触れるのも有意義です。文字情報としては次のような本や新聞記事が参考になると思います。
「匠の技(徳間文庫)」「宮大工の人育て(祥伝社新書)」「木のいのち木のこころ(新潮文庫)」「職人(岩波新書)」「よい製品とは何か(ダイヤモンド社)」「伝統の逆襲(祥伝社)」「そこまでやるか(日経新聞社)」「調香師の手帖(朝日文庫)」「香水・香りの秘密と調香師の技(白水社)」「香りを創る、香りを売る(ダイヤモンド社)」「杜氏という仕事(新潮選書)」「調理場という戦場・コート・ドール斉藤政雄の仕事論(幻冬舎文庫)」「日本料理の贅沢(講談社新書)」「秘伝かくし味(ブロンズ新社)」「ザ仕事人(日経新聞:2008年〜2009連載)」「しごと図鑑(日経新聞・連載中)」「凄腕つとめにん(朝日新聞・連載中)」、NHK「プロフェショナル・仕事の流儀」等です。これら以外に雑誌や新聞に掲載された各分野の超人のインタビュー記事から価値ある感覚・感性・スキルを知ることができます。勿論、読むだけで超人の官能評価の極意、感覚の働かせ方、あるいは匠の技やノウハウ、クラフツマンシップ、伝承法などが解かる訳ではないものの、本質面への「気づき」や今後のヒントが得られると思います。
感覚感度や官能力は生来的/本能的に保有している部分と経験や学習を通じて獲得していく部分がありますが、潜在能力は全ての人に等しいと思います。それを最大限に引き出す意欲と活用実績が官能力と総合的な評価力の個人差を生みます。匠の官能評価スキルはモノ(づくり)との真剣勝負を繰り返しながら培われることが多く、官能力という武器がモノづくりの技/ノウハウを鍛え、そしてその技が官能力と評価力を一層高める、という実践的なスパイラルアップが一流への道になっています。またその過程で、つくり手としての哲学や美学がよりピュアになり、全人格的な要素が作品(ハード)の質感に表れてきます。更に、つくりの工程あるいは仕事の型そのもの(ソフト)も「分身」のように光り輝くこともあります。一般に官能力と匠の技を駆使する達人は、工程毎に由来する結果と官能的な特徴についての相関関係のみならず工程条件と品質との因果関係(品質づくりのメカニズム)を押さえています。この論理的な解析力(定量分析と定性分析)がアナログ的な感覚・感性に裏打ちされて匠の創意工夫/勘所の切れ味を鋭くします。なおモノづくりの現場だけでなく、官能評価の中身と結果が問われるサービスの場や品質判定/鑑定の場でも、その道の「プロ」は明確な目的意識を持ち、常に実践(PDCA)を通じて独自の強み(官能力と総合的な評価力)に磨きをかけていると思います。

■「未知の感覚と言葉」高橋正二郎
「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」。訳のわからないものでも正体はあるもので、知ってしまえば何と言うこともないことがあります。また、たとえトラツグミの鳴き声のような気持ちの悪いものであっても、言葉にして示されると安心できるものです。逆に、言葉がないと確かな存在として認めがたい思索や感情があることも確かだと思います。
この言葉の見当たらないことが新しい感性価値の開発には大きな関門になります。つまり、今までにない味や香りや感触も、言葉にならないうちは確固たる存在にはならないからです。最初は何となくこんなものというような感覚はあっても、言葉にならないうちは他の人に伝えることもできなければ、自分自身にさえ伝えることができないのです。自分自身に伝えることができないということは、自問自答ができなくなり、考えも進まないことになります。おぼろげなものが、いつまでもおぼろげなままで、思いついた味や香りも具体化や深化はできません。ところが、そこへ適切な言葉が思い浮かぶと、ことは急に具体的になります。言葉が概念を呼ぶというか、味や香りの目指すものが「この辺り」というように感じてきます。さらに、この辺りから進んで、より目指すものへの感覚へ近づくこともでき、同時に最初の言葉もより適切な概念を示す言葉が浮かぶこともあります。このように連鎖的に感覚や言葉が生まれてくれば、何も申すこともありません。ところが、問題はそうは簡単に言葉が浮かんでくるとは限らないのです。
このようなときの手堅い方法として、思いついた新しい感覚をプリミティブな言葉を用いて表わしてみることです。ここで言うプリミティブな言葉とは、明るい⇔暗い、重い⇔軽い、新しい⇔懐かしい、動的⇔静的、くっきり⇔ぼんやり、男性的⇔女性的、理性的⇔感情的、にぎやか⇔さびしい、というようなイメージ的な語彙群を言います。このようなイメージ的な言葉を多めに用意して、新しい感覚がその言葉を要素として含んでいるかというプロフィールを作ります。このような言葉を用いて、新しい感覚が、より明るい感じか、より男性的か、より動的か、・・・というようにプロフィールが描けてきます。このとき、目指す感覚に近い感覚もあわせてプロフィールを作って比較をすると、目指す感覚はより鮮明になる可能性があります。
ただ、この作業は用意する言葉が多くなると煩雑になり、見通しが悪くなります。このようなときは、多変量解析の力を借りることが実用的です。たとえば主成分分析を実行すれば、同じような挙動をする言葉をまとめた概念軸で、しかも便利な数の軸で示されますので、包括的な官能空間に図示ができます。多少の翻訳作業が必要にはなりますが、視覚的に概念の把握ができ、便利な手法といえます。
プリミティブな言葉を準備するのはかなり骨の折れる仕事です。一から思いつくのは難儀で、近道は他の例から借りてくることで、音楽や美術の評論などは格好の教材です。それでも言葉に満足感がえられないようだったら、辞書をめくってみるのも良いかと考えます。ひょっとすると、目に付いた言葉から新しい感覚のヒントがえられる場合もあります。広辞苑は約3000ページありますが、2週間もあればめくりきれますので、チャレンジしてみるのも一興かと思います。新しい感性価値づくりに奔走している人は、いつも言葉探しの連続です。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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