配信日:2014年5月1日
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■■■ 官能開発のメールマガジン
■□■ ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■ 発行者:日本オリエンテーション
■□■ 毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.22□■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。
日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同 高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、回を重ねて22号になります。
◆INDEX
1.『官能評価は静止画と動画の組み合わせ』大西正巳
可視化や可聴化、その組み合わせなど色々な形で香り・味わいの静的な表情と動的な状態が評価できると「おいしさ」の発見や開発につながると思います。
2.『思いっきり「快」を想像してみよう』高橋正二郎
感性価値の到達点は「快」です。その「快」の極みに向かって、日常思考の回路や枠組みを超えた思いっきりの想像を巡らしてみましょう。
■「官能評価は静止画と動画の組み合わせ」大西正巳
感覚/官能を通じて何かをみるというのは人それぞれです。見る、触れるというのは評価対象の共有化と意見交換は比較的容易ですが、香り・味わいについては「どこを、どのようにみて、どう感じているのか」のコミュニケーションは難しいものです。
人はある瞬間/ある要素をとらえた感覚(静止画)と動きをスペクトル的にとらえた感覚(スライドショー/動画)の組み合わせで評価を行っています。触感の場合でも、触れた瞬間と無意識に撫でた肌触り(スペクトル)で診ていることが多いと思います。また感じた特徴を「官能プリズム」のように要素に再分解して存在意義を理解することもあります。官能特性の経時的な動き(消長)を評価する方法としてはTDS(Temporal Dominance of Sensations)法が知られています。また以前に、時間軸を伴う香味のプロファイル化と三次元的なビジュアル化を進めるダイナミックQDAという考え方を提案しました。
少し話はそれますが「分子の音‥身体のなかのシンフォニー」という興味深い本(毎日新聞社:2013)があります。身体の中の色々な分子(アミノ酸、糖、ビタミン、ホルモン等)の運動(振動)を可聴化、つまり周波数に変換し音楽として解読する試みを記した本で、その音楽CDが付いています。分子の挙動にはリズムがあり、意味が潜んでいるのではとの思いで、音楽プロデューサー、量子化学者、演奏家がチームを組み、分子の音を奏でています。分子の音は一つひとつ異なり、ある特定の周期性を伴うゆらぎのメロディになっているようです。人の心や体への同調作用、医療分野への応用の議論はさておき、この「可聴化」の考え方には香り・味わいの官能評価法やおいしさを追求していく上でのヒントがあると思えます。何事にも「見える化」が叫ばれますが、「可聴化」や「特徴/要素の旋律化」という概念を加えることで新たな感覚的/官能的な特徴が見えてくる可能性があります。
酒類の特徴や個性の基となる香り・味わいの成分も分子で構成され、やはり振動しています。サンプルから漂ってくる香りはトップ〜ラストノートの官能スペクトルになりますが、含まれる香り成分を要素的に調べるにはスニッフィングという分析(クロマトカラムで分離され出てくる香りを嗅ぎ取る)テクニックがあります。嗅ぎ取った個々の香りの特徴の流れ(アロマグラム)は一種のスペクトルになっています。ただ、香り成分を自覚していなくても脳レベルでは感じている(生理反応として表れる)場合もあるようです。音の評価でも、耳には聴こえない高周波音(ハイパーソニック)が肌や脳にそして心地には反応すると言われ、また皮膚には聴覚と視覚の機能が含まれることも示唆されています。「昼のお星は眼に見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。」という金子みすゞの世界かも知れません。人の生体リズムや感覚はゆらぎ、モノを構成する分子のリズムもゆらぐ、その両者の関係のあり方が心地良さやおいしさの感じ方に反映してくるのだと思います。
■「思いっきり『快』を想像してみよう」高橋正二郎
SDP(Sensory Design Program)はおいしい味、素敵な香り、気持のよい感触を開発するツールです。折角、素晴らしいコンセプトの商品でも、感性価値のつくり込みが不十分で、期待はずれの商品になってしまうことが多々あります。そんな残念なことにならないようにSDPがある訳なのですが、逆にSDPの実力が試されるようなコンセプトの出現を待ち望んでいることもあります。「快」を極めたような企画です。今の商品の企画ではマーケティング上の整合性が求められるため、企画の多くは左脳の生産物に偏重しているきらいがあります。もっと右脳の活躍のある、根源的な快を追い求めてみてもおもしろいと思います。
そこで、五感に立ち戻って、それぞれの「快」を考えてみます。視覚では、聴覚では、というように味覚、嗅覚、触角のそれぞれの快を考えた時、甚だ希薄な経験からの判断で恐縮ですが、触角が「快」に一番近いように思えます。冬の寒い日に湯船に浸かったときの気持ちよさ、また、背中をやさしく摩ってもらったときの安堵感や包容感に通ずる心地よさ、さらにはベッドの上でのことになれば言うまでもありません。単なる心地よさや気持ちよさを超えて、魅力的で魅惑的であり、さらには蠱惑的でもあります。
蠱惑的といえば、香水やオーデコロンのフレグランスの世界では好例があります。ポワゾン、オピオム、オブセッション、タブーという香水は、ネーミングだけでも錚々たる顔ぶれですが、中身の香りも同様に挑発的です。中でもポワゾンは、以前、日本でも大流行して、フローオリエンタル・フルーティの個性豊かな香りに行く先々で出会うことができました。十分に熟れた果物を思わせる豊潤な香りには、魅力的や魅惑的と感じた人もいれば、香りの圧倒的な存在感に戸惑われた御仁もいらしたことでしょう。お菓子の世界でもチューインガムにおもしろい例がありました。ロッテのグラマティック(月夜のベリー)で、ネーミングとパッケージからも雰囲気は感じられましたが、口に入れてびっくり、その味やフレバーはなかなか蠱惑的で感動しました。
このような話は、いきなり始めるには少し抵抗があるかもしれません。手ほどきが必要です。その手ほどきに最適なのが澁澤龍彦だと思います。澁澤の業績は人間精神や文明社会の暗闇に光を当てたことですが、平たく言えば、誰にしも関心はあるが人前では憚ることもあることを平常の議論の対象にしてくれたことと言えるでしょう。澁澤に手を引いてもらうつもりで、澁澤の著書をお読みになられてはいかがでしょう。
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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。
■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。
■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。
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■□■「SDPメルマガ」
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■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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