1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第28号

配信日:2014年11月4日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.28□■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンも、3年目に入りました。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、同 高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、通号で28号になります。

◆INDEX
1.『官能職人』大西正巳
官能力のベースになるのがモノや状態/状況に対する好奇心と探求心、純粋な心だと思います。

2.『温感からの妄想』高橋正二郎
温かいという感じはいきなり気持ちの良さを感じることができることから、温かさを新しい価値と見立てた多方面のビジネスが展開できそうです。

■「官能職人」大西正巳
「職人というのは職業ではなくて生き方だと思う」と記したのは永六輔氏ですが、官能を道具として作品を生む人や工程の開発・改善をする人の全体にも言えることだと思えます。技の基本形は先輩から学び、継承することも可能ですが、生き方はそれぞれの夢、哲学、美意識、価値観、そして環境を背景に自ら構築していくものだと思います。また生き方や姿勢が暗黙知/ノウハウの形成やコミュニケーションのスタイルにも表れてくると思います。
「匠の技」という本の中で、骨董商の中島誠之助氏の話が載っています。「優れた眼力は、金銭的な冒険をし、時には生活の破綻さえ覚悟しながら、常にギリギリの選択を強いられることの中でしか育たない。だから古物商から見れば、身銭を切ることのない博物館や大学の研究者など、目の利かない人達ばかりだ。」また「知識がつくことで儲けへの欲望がでるが、欲があれば素直に見ることが難しくなり、眼力を駄目にする。 結局、みる力はその人がいかに生きているか、つまり生活や価値観などと切り離されて存在するものではない。」と記されています。
官能力と知識・情報は経験と共に増えますが、官能の権威としての評判を高めたいという欲、売れさえすれば良いという姿勢、製品/素材に対する愛情の欠如なども官能評価が歪む一因になると思います。
分子生物学者・福岡伸一氏は「スポーツ、芸術、技能どの分野でも圧倒的な力を誇示するプロが存在する。そのプロの多くは皆、ある特殊な時間を共有している。10000時間。例外なくそのことに集中・専心し、たゆまぬ努力をしている時間である。1日3時間練習したりレッスンを受けるとして1年に1000時間、それを10年に亘って休まず継続するということである。プロの子弟はしばしば同じ道を進むことが多く、一見、遺伝のように見えるけれども恐らくそうではなく、親はDNAでなく環境を与えているのだ。やはり氏より育ち。」と述べています。この指摘は、官能力と企画・設計・開発力を必要とするブレンダーや調香師、幅広い酒類・食品の開発/生産現場の技術者などにも当てはまるでしょう。ただ官能力は官能意識(意欲)の高さと官能方法の的確さ、そして官能に集中する時間の3つの掛け算で決まると考えられるため、費やす時間の中身が問われます。これは何だろう、なぜだろう、とごく自然に五感細胞で受けとめ、想像力を発揮し続けることが大切です。その上で商品の評価と開発の真剣勝負の場でハードあるいはソフトな価値を生み出すことにより官能力と評価力がプロの「マーケッタブル・スキル」として認められるようになるのだと思います。

■「温感からの妄想」高橋正二郎
BS放送でパリのレポート番組を見ていたら、紅茶の茶葉を売るお店で温かいおしぼりを出している場面が出てきました。フランス人女性の店主が日本で体験した暖かいおしぼりのサービスに感激して始めたそうです。自分でも感動したおしぼりの温かさをパリのお客さまにも感動していただけたらと誇らしげに語っていました。そういえば温かさという感覚は気持ちの良いもので、床屋で顔に当ててくれる蒸しタオルも非常に気持ちが良いものです。あの温かさは不思議な温かさで、温かさを感じるよりも先に気持ち良さを感じるような気がします。
温感を含めて皮膚の感覚は外界の刺激の情報を感知するだけではなく、情動と連動した反応を呼び起こすような気がします。どうやら皮膚感覚は、好きや嫌い、気持ち良いや気持ち悪いという反応を常に伴っているようです。この点は視覚や聴覚と比べると少し違います。視覚や聴覚は何かを見たり聞いたりしたときに、いきなり好きとか嫌いというようなことではなく、まずは何かを感じて、そのあとから好きや嫌いといった情動が現れるのが普通だと思います。
これに対して皮膚の感覚は、例えば、肌にべたっとしたものがついたとき、べたっとした感じを感じる前に「気持ち悪い」と感じることがあると思います。べたっとした感じを感じるのは気持ち悪さを感じてからになることが多いのです。というように皮膚の感覚は最初に好き嫌いから感じることから、時としてどんな感覚かわからないまま「気持ち良い〜」という感覚が起きることもあります。皮膚感覚の中でも温感は、特にその傾向が強いように感じます。
お風呂が気持ちの良い季節になりましたが、寒い日に冷えた身体で入るお風呂の気持ち良さは格別なものがあります。単なる気持ち良さを超えて「極楽、極楽、」といった言葉さえでてきます。ところが肝心の温かさですが、どの程度の温かさなのかはしばらく経ってから徐々にわかってくるということになります。食べ物の世界でも、ハフハフの必要なアツアツの食べ物も味よりも温感という場合もあり、専門家ならわかる味も十分わからないまま「おししい〜」ということになるのかも知れません。
温感エステを再現した美顔器なるものが大手家電メーカーから発売されていますが、いきなり気持ち良さを訴えることができる価値を狙った商品と考えられます。
このように温感をコンセプトや新しい価値とした商品やサービスの開発をめざして温感の研究やノウハウの蓄積は、思いのほか早期の成果が見込める気がしてなりません。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■■■ 第28号(2014/11/04) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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