1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第29号

配信日:2014年12月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.29□■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンも、3年目に入りました。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、通号で29号になります。

◆INDEX
1.『匠の技、官能の技の伝承(その1)』大西正巳
官能スキルやノウハウあるいは匠の技をいかに伝え、更に磨いていくか、その人材と情熱をどのように開発していくかはメーカーの中心課題です。

2.『化粧品の官能検査現場』高橋正二郎
化粧品の官能評価は化粧品を正しく使えないと評価ができません。また、実際の使用場面に近い使用環境で官能検査を実施する必要があるための苦労話を紹介します。

■『匠の技、官能の技の伝承(その1)』大西正巳
「技の伝承」と「人材育成」は古くから議論されてきた重要なテーマですが、ものづくりのハードな技術や暗黙知だけでなく、官能スキルやマーケティング、コミュニケーションなどのスキルも含まれます。勿論、その解はひとつではなく、様々なスタイルが試行錯誤的に構築されていると思います。分野や人によっては技の伝承や後継者の教育に対する考え方と方法論も異なってきますが、プロとスペシャリストのあり方、スキル/技術のあり方、個人と組織の情報の活用のあり方等が含まれます。いわゆる企業の7つのS(共通の価値観、戦略、組織、システム、人材、スキル、スタイル)に密接に関係し、単なる「伝承」を超える奥深いマネジメント課題だと言えます。
伝承や育成、学び方に関する記事を拾うと、例えば料理人には、「今は、どれだけ分かり易い言葉で理路整然と教えられるかと言うことの方が大事だと思う。そもそも、盗んでいる時間が勿体ない。しかも『盗んで覚えろ』と言う人に限って、その通りにすると『何を盗んでいるんだ』と言う。じっとみていたら怒られるし、覚えたくても覚えられない。『盗んで覚えろ』というのは、教えるのが面倒くさいとか、早く教えてしまうと自分の立場がなくなるとか、そういう下心を格好よく言い換えた言葉でしょう(日本料理・龍吟:山本征治シェフ)」あるいは「料理は盗んで覚えろという格言が料理人の世界にあり、料理を教えずに雑用をやらせる。私の経験から言うと先輩の料理人が若手に地位を脅かされるから。料理は経験が大切。レシピを見せて包丁を持たせる。それが成長の極意になる。真剣に場数を踏ませることが大切なのです(京都・吉兆:徳岡邦夫社長)」のような光る意見があります。
一方、田坂學氏(アートディレクター/デザイナー)はスポーツカーのポルシェ社のユニークな取り組みを紹介しています。ポルシェ本社には「911」をデザインしたポルシェ氏の「ポルシェの部屋」が大切に保存されており、入社した新人デザイナーは、研修以前にその部屋に1週間缶詰にされるそうです。そこで「特に何をしろとも言われないし、何も教えられることもなく、ここで感じろ」と言うことになっています。
何か知識や情報を与えられる前に、あるいは教えこまれる前に、白紙の状態で「感じる」という基本を思い出す機会を与えているのだと思います。考える前に自らの感覚を通じてしか得られないモノや雰囲気の表情やメッセージを感じとることは官能評価の精神でもあります。心を無に、そしてモノに教えてもらう謙虚さを持ち、まずは全てを感じとる、その上で例えばシグナルとノイズの意味合いを考える、見方を工夫する、あるいは感じた結果を参考に新たなイメージや仮説を描いてみるという流れが大切になります。
次号では、匠の技の継承や教育について別の角度から論じた事例を紹介したいと思います。

■「化粧品の官能検査現場」高橋正二郎
官能評価はいろいろな業種で行われていますが、専門の官能検査員が官能評価を実施するとき、どの検査員もブースの中で多かれ少なかれ質問紙とにらめっこ状態になるものと思われます。長年、化粧品の官能検査に携わってきましたが、化粧品にはこの状態がつくれない検査品があります。その最たるものがシャンプーで、水を頭からかぶることになることから紙の質問紙は傍に置くことすら無理といえます。加えて、髪に泡立てているときを始め、流すときなど、シャンプーを使用している間は眼が利かないので、評価項目を順に結果を記入することも難しいのです。そこで、シャンプーが終わってから評価を記入するわけですが、慣れるまでは意外と難しいのです。シャンプーをしている時の感触について段階を追って思い出す作業になるわけですが、印象の薄い検査品だと苦戦します。さらに面倒なことに再試行ができません。シャンプーをしてしまった髪は元の状態ではありませんので、もう一度実施というわけにはいきません。シャンプーの洗浄の相手は汚れだけではなく、頭皮の皮脂が大きな部分を占めます。この皮脂が元の状態に戻るには30時間程かかりますので、シャンプーで皮脂を落としてしまったら、1日以上テストはできないことになります。というわけで、テストの前に質問紙をよく読んで、評価項目の官能特性を確かめ、評価順序を頭に叩き込んでテストにかかり、終わったら一気に記入することになります。そのとき、とりわけ難しい特性が「髪のきしみ」で、シャンプーの泡が流れ出し、泡の相から水の相になる僅かな瞬間に起きるので、指先の集中力を総動員して感じ取ることになります。そして、その感覚を忘れないうちに、ただちに記入となるのです。
同じようなことが、洗顔料にもいえます。洗顔料もシャンプーと同じように、終わってから一気に記入しますが、加えて性差があります。つまり、女性の肌なら感じられることも、男の皮膚では感じられない特性があります。クレンジングフォームや洗顔せっけんのマイルド感がそれで、どうも男には感じることが難しいのです。もっとも、現実の官能評価は女性用の化粧品は男が評価したりしませんので、問題はありません。ただ、新人の官能評価検査員を教育しているとき、1か月もすると新人の女性の方が正しい感覚を示してきます。マイルドで評判の他社のクレンジングフォームの使用感を確認してみたときなどは、「わからないな〜」なんて言おうものなら、「ええ、わかりませんか。こんなに違うのに〜」と言い返されてしまうのです。すると、つい頭に血が上って、「こんな小娘ごときに」なんてセクハラ感覚が眼を覚ましそうですが、敵わないことは悔しいけれど仕方のないことで、「この事実を認めることが正しい官能評価になるのだ」と言い聞かせて引き下がるしかありません。顔の皮膚は、女性はお顔のお肌ですが、男は所詮「ツラの皮」なのです。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを30年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■■■ 第29号(2014/12/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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