1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第39号

配信日:2015年10月1日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.39 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で39号になりました。

◆INDEX
1.『音の風景と展開』大西正巳
ウエアラブルに加えてヒアラブル(hearable)なデバイス/テクノロジーの開発、あるいは声や音の聴覚情報の管理、超聴覚等の記事を見受けますが、「聞く」と「聴く」の意識も更に重要になります。

2.『感性価値開発における【集・創・伝】』高橋正二郎
感性価値開発はお客さまの求める価値を集め、その価値を反映した商品を創り、その価値をお客さまに的確に伝えることが大切です。

■『音の風景と展開』大西正巳
当メルマガ22号で「分子の音・身体のなかのシンフォニー」という参考書を紹介しました。生体内の色々な分子(アミノ酸、ビタミン、ホルモン等)の振動/リズムを音の周波数に変換し音色/音楽にする「可聴化(sonification)」の試みを記した本ですが、実際にその音楽をCDで聴くことができます。「可視化(visualization)」では気づかないことを聴覚によって発見するという狙いが背景にあります。様々な香り・味わいのフレーバー分子も固有の振動をしているため、フレーバー(群)をシンフォニーとして捉える、香味を奏でていると捉えることにより「おいしさ」も立体的に見えてくるかも知れません。おいしさは香り・味わいのみならず見た目や食感、飲食時にモノが発する音を通じて五感的に評価していますが、フレーバーのアロマグラムと共に聴覚的あるいは触覚的なスペクトグラム(時間と周波数)がダイナミックなおいしさの風景を描く軸になると思います。
さて聴覚の世界に関連しますが、音響生態学者・バーニー・クラウス氏による「サウンド・スケープ(音の風景):NHK・スーパープレゼンテーション(2015.7.29)」も興味深いプレゼン内容です。世界の様々な土地の音を4500時間も録音している経験から、我々が耳にするサウンド・スケープを、ジオフォニー(せせらぎや波の音、木々のざわめきなどの自然現象の音)、バイオフォニー(生き物が発する様々な音)、アンスロフォニー(人間が出す音、その大半は調和のとれていない無秩序な音)の3つに分類しています。それぞれの音には意味があり、特に自然界の「音」は、自然環境の「声」として目で調べるよりも多くの情報/物語が詰まっていると言います。「目で見る風景は正面方向に限定されてしまうが、音風景は360度の音に包まれる。一枚の絵が1000の言葉に値するなら、音風景は1000枚の絵に値する」と述べていますが、感覚評価全体に共通する示唆に富む意見です。日常生活の音や匂い、あるいは官能対象を「風景」として感じる、その要素を分類し変化を知る、また感じたものを描写してみる、そしてそれを参考に新たな風景をデザインしてみるという試行錯誤は官能開発の狙いに通じます。
一般に、人間が外部から得られる情報量の約8割が視覚からで、聴覚は約1割程度と言われています。ただその割合は一定ではなく、映画やCMの効果音のように状況によって視覚情報を変化させます。その影響だと思いますが、特定の消費者に対して飲用を過度に刺激しないように酒類の業界団体がCMの「ごくごく」「ぐびぐび」という効果音を自主規制する方針が示されました。ただ個人的にはオンザロックの氷がクリスタルグラスに触れるシズル感のある音、シャンパンやビールの泡の音は中味を一層おいしく感じさせてくれます。匂いや音、感触などは懐かしさを伴いますが、心地よい風景、プレミアムな風景などを五感ごとに、そして複合してイメージすると面白いと思います。

■『感性価値開発における【集・創・伝】』高橋正二郎
前回はお客さまが感性価値を語るとき、言葉によっては辞書の意味するところと違う場合があることを申し上げました。それはそれで良いのですが、その先があることを忘れてはいけないのです。お客さまの言葉をお客さまの真意に沿って解釈することは重要なことですが、言葉の翻訳先を確かめる必要があります。日本語で表された情報を他の言葉に直す際、英語、中国語の選択を誤ってしまっては情報そのものの価値を失ってしまうことになります。お客さまの言葉で表された価値ある情報は私どもがその価値を最大限に生かせる言葉に変換しなくてはいけません。お客さまの欲する感性価値は私どもが苦労してつくり上げた可能評価用語に変換しなくては、お客さまの求める価値を受け止めることはできません。つまり、お客さまの声に耳を傾けるとは、ただ量的に多くの意見を聞くのではな く、正しく翻訳をすることにあるわけです。
お客様から集めた価値はお客さまの言葉で表され、その価値を反映した商品を創るために準備した言葉があり、その間には【集】→【創】の変換があります。お客さまの欲する価値も私ども言葉で表されていれば、お客さまの期待に沿った価値をつくり込むことができます。こうして確かな設計ができ、その設計に基づいた商品が確実にできることは、このマルメガを通じて様々な事例を何度か申し述べて参りました。さて、これで安心でしょうか。
実はこの後にもう一段階翻訳の仕事が残っています。苦労の末に創り上げた価値をお客さまに伝えなくてはいけません。この価値は創る言葉によってできたものですから、創る言葉で表されています。創り言葉はもともと私どものものつくり文化の中でできた言葉ですので、いわばムラ言葉のようなもので、そのままではお客さまに真意が伝わらないと考えられます。そこで、お客さまがわかる言葉に直す必要がありますが、【集】の言葉に戻せばいいのではありません。お客さまの琴線に触れ、お客さまとの共感が得られる言葉を捜すべきです。ここに、【創】→【伝】というもうひとつの変換があるのです。創られた価値を伝える具体的な言葉つくりはコピーライターに頼むにしても、訴求する感性価値が創る言葉によって正確に表されていますので、作業はスムーズに進むことが約束されます。一方のコピーライターにとっても、何を訴求して良いのか困ることも、お客さまを惑わす過剰な訴求も避けることができます。
感性価値は嗜好に帰結することが多く、お客さまの価値の趣向を集め、趣向を反映した価値を創造し、その価値をお客さまに的確に伝えることが大切です。感性価値開発は【集・創・伝】の体系の上に成り立つもので、【集】→【創】、【創】→【伝】の変換作業は細心の注意を払って実施していく必要があります。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■■■ 第39号(2015/10/01) (c) 2012Japan Orientation
■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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