1970年から、新商品開発・マーケティングの人材育成のセミナー・コンサルティングと新商品開発戦略、新商品開発システム革新の仕事を続けています。

日本オリエンテーションは、マーケティングをR&Dする事務所です。
考えるヒント:メルマガ「SDP:Sensory Design Program−感性価値設計開発研究所」

【SDP:Sensory Design Program メルマガ】第40号

配信日:2015年11月2日

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■■■        官能開発のメールマガジン
■□■   ≪SDP*研究所メールマガジン≫
■□■     発行者:日本オリエンテーション
■□■       毎月1日発行(創刊 2012/08/01)
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■□SDPメールマガジン No.40 □■
官能を使って価値を開発する【官能開発】のメールマガジンです。日本オリエンテーションSDP研究所客員研究員 大西正巳(元サントリー)、高橋正二郎(元資生堂)、日本オリエンテーション主宰松本勝英の共同メルマガで、お陰さまをもちまして通号で40号になりました。

◆INDEX
1.『「実学」としての官能評価』大西正巳
官能評価を製品の製造や品質の保証・管理目的のみならず、商品開発や訴求活動などに活用し、それらを通じて自らのやりがいを高めていくことに意義があります。

2.『集・創・伝の【伝】』高橋正二郎
開発した感性価値はお客さまにわかる言葉で伝えることが大切です。また、過剰な表現でウソをついてしまうと、メーカー全体の信用にかかわることになります。

■『「実学」としての官能評価』大西正巳
酒類のイベントや試飲会などが盛況ですが、それと共にユーザーの官能力の鋭さや官能表現の豊かさに驚かされる場面が多くなりました。バーなどでも香り・味わいの特徴や製品/製造関連に関する会話をよく耳にします。以前はこのような状況はある程度ヘビーユーザーが中心でしたが、今や飲食全体に品質訴求や官能的な特徴に対する興味が広がり、また感度も高まっています。そしてこのような傾向を反映し、メーカーや流通・販売サイドの官能(評価・開発)意識と官能スキルそのものも益々向上してきたと思えます。実際に官能評価法の活用やデータ解析関連の学会、専門セミナーへの関心も高く、また官能評価や品質管理のプロによる定期的な社内研修を実施している企業も多いようです。このように全社員が品質を意識し、武器としての官能力を磨く、また官能用語やその意味合いが社内で当たり前のように浸透していくことが大切です。ただ個々人が官能検査法/官能評価法の基本を身につけ、実践するのは必須ですが、同時に官能評価と官能開発機能のあり方と組織の運営法、官能人材のシステマティックな育成等の課題も改革・改善していくことが極めて重要になります。官能をコアにした評価力・設計力・開発力・情報活用力は「個と組織」が共に強くなることが求められるからです。また何よりも官能人材の「やる気とやりがいの醸成」「魅力ある職場づくり」が不可欠になると思います。
ジャーナリストのダニエル・ピンク氏は「やる気はどこからくるのか」という調査(2013)を行い、内発的動機と外発的動機によりやる気の質や仕事の成果が異なることを検証しています。そして「ルールや目的が明確な場合はアメ(金銭的な報酬)とムチが意識を集中させて仕事の成果を高める。一方、クリエイティブな発想や思考の活性化が必要な仕事では、金銭的なインセンティブは視野を狭め、しばしば創造性を潰し、むしろ弊害を生む。このように明確なルールがなく、様々な発想を求められる仕事では内発的動機がやる気を引き出し成果に結び付く。その内発的動機には個人の自主性(重要だから、楽しいから、ワクワクするからやる)、熟達(価値ある技術を磨き続ける)、目的(なぜ働くのかの自覚)の三つがモノを言う。」と述べています。これは経営スタイルのあり方にも関係しますが、官能検査、官能評価/官能開発に関してはそれぞれの目的と役割が異なるために内発的と外発的な動機付けのバランスも異なってくると思います。そのため検査型、評価型、開発型の各人材に求められる姿と短・中長期の仕事の内容に応じた成果評価(モノサシ)や人事的な評価と制度(スペシャリスト制度や表彰制度など)の考え方も明確にして使命感と自己成長を促していきたいものです。官能人材の中で、職人型特性の強いプロは金銭的な報酬よりも技能と仕事の意義が認められることを重視する傾向があります。いずれにせよ「その部署で、是非働きたい/能力をダイナミックに発揮したい/実践的なスキルを更に磨きたい」と思わせるだけの官能評価・開発部署の機能や仕事、そして組織の風土/スタイルをどうデザインしていくかがキーになると思います。

■『集・創・伝の【伝】』高橋正二郎
前号では感性価値の「集・創・伝」の話をしました。メーカーの仕事は感性価値を創りだすことなので、【創】に力点があるのは言うまでもありません。ただ、どんな優れた商品でも漫然とお店に並べておいたのでは商品の良さは、2〜30%も伝わらないでしょう。そこで告知活動が必要になり、宣伝や広告で商品の良さの伝わりが80%、90%になるようにする訳です。ここに【伝】の重要性が認められます。だが、苦労して開発した感性価値は【創】の言葉でつくられていますので、そのままの言葉ではお客さまに正しく伝わらないのではないかという心配もあります。お客さまが受容できる言葉に翻訳をして伝えることが必要で、これにより【伝】が成立します。
ところがここで、【伝】も頑張りすぎによる失敗があります。感性価値の訴求で頑張りすぎは起きやすいことなので、注意が必要です。宣伝担当の方やコピーライターが、意図せず105%や130%の宣伝文句をつくってしまうことがあります。これではキャッチコピーに釣られたお客さまが商品を買って使ったら、まったくのウソだったということが起こりかねません。このようなときお客さまは、「もうウソツキ会社の商品は買わない」と思うでしょう。宣伝した商品だけではなく、そのメーカーの全ての商品が買っていただけないことになってしまいます。折角の宣伝が全社的な不買運動になってしまうのでは、元も子もないことになります。感性価値の訴求では、ついチカラ余ってコンセプトを超えた訴求をしてしまいがちですが、これは絶対にダメです。
ところがコンセプトを守り、法規制や行政の指導も守っていても思わぬ勇み足もあります。工夫を凝らしたビジュアル情報や精緻なエビデンスを積み重ねた訴求が意外にも逆効果を生んでしまうことがあるのです。ある化粧品メーカーで非常に肌改善効果の高い化粧品の開発に成功しました。そこで、前述のようなビジュアル情報やエビデンスを重層的に訴求展開する告知活動を実施しました。少なくとも効果に対する評価は高くなったと期待されたが、事後の購入者への調査では「効果が薄い」という評価になってしまいました。これは後からわかったことですが、余りにも周到な訴求を重ねたことにより、お客さまの商品に対する期待が必要以上に高まってしまったのです。これで、十分効果のある化粧品にもかかわらず、期待に応えることができなくなってしまったという珍しい例です。【伝】も伝え方によっては想定外の期待をもたせてしまうこともあるようです。化粧品ならではの特異な事象かもしれませんが、効果のある化粧品だからこそ起きたことで、全体最適の視点から再考すれば十分防げたことです。

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◆皆さんのご意見、投稿大歓迎です。お待ちしています。
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≪SDP研究所メンバー紹介≫
■■大西正巳(おおにしまさみ)
◆サントリー(株)山崎蒸溜所・工場長、ブレンダー室長を歴任し、主に蒸溜酒の商品開発と技術開発を34年間担当。◆サントリー退社後、洋酒研究家及び酒類、食品の官能評価、品質開発、技術開発のコンサルタントとして独立。現在、鹿児島大学・農学部・非常勤講師を兼務。◆「おいしさ」を官能により評価すること、そして魅力的な「おいしさ」をデザインし、開発することを主テーマとして取り組んでいます。

■■高橋正二郎(たかはししょうじろう)
◆(株)資生堂で商品開発、官能評価、市場調査を担当。「データは手羽先」というスローガンを掲げ、鳥瞰的な統計理論の活用に加え、虫視的な生活観察と官能検査の考え方を導入し、商品開発に直結したデータマイニングを追求してきた。◆現在は、官能評価の創造的活用により、味覚・嗅覚・触覚に関わる感性価値の開発を中心にコンサルタントやセミナーで活動中。◆究極の目標として「触覚の美学」を掲げるも、道半ば。

■■まつもとかつひで
◆シーメンスを経て、1970年マーケティング・コンサルティングを業務とする(株)日本オリエンテーションを設立。 ◆食品、トイレタリー商品、薬品、家電商品、ミュージシャン、出版など、パッケージ商品、耐久消費財およびサービス商品のマーケティング、新商品戦略の立案を担当。「商品開発プログラムのたて方36時間」セミナーを32年に渡って講演、3000人以上の受講者がいる。 コンサルタント歴は、毎年10〜15プロジェクトを指導。今までに300社以上の商品開発戦略、商品コンセプト開発、商品開発システムの革新を担当。◆現在、文化人類学、動物行動学、神経生理学、民族学、言語学などを統合した「新人間学」とマーケティング戦略との融合を追及中。

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■□■ 発行者 日本オリエンテーション 大西・高橋・松本
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