9. 脳と心をマッサージする商品
「われわれは物を売っているのではない、物を媒体として生きることの楽しさ(見て、身につけて、組み合わせてワクワクするもの)を消費者に提供するのだ」という考え。
物余りの時代になり、消費者の購買行動は、自分が持っていて楽しい物、個性が表現できる物を買う、という風に変わってきている。イタリア人は、こうした市場の変化を彼らの感性で敏感に感じ取ったうえ、自分たちがルネッサンス以来継承してきた美の感覚を商品に取り入れてきた。これにより「生きることの楽しさを消費者に提供する」という考え方がモノづくりの原点です。(小林元氏 文教学院大学大学院客員教授)
このような発想は、人生を楽しむライフスタイルが原点。
「年収が低くてもフランス人やイタリア人は、3?4週間のバカンスをとって人生をゆったり楽しんでいる。イタリア経済が好調なのはファッション、家具、工芸品などブランドものに代表される高付加価値商品。高い感性に裏付けさているから。その源泉は、人生を楽しむラテン型ライフスタイルにある。自らワクワクどきどきしていない人に、消費者を感動させる商品は作れない。」(森永卓郎氏朝日2002.9.8)
日本でも江戸時代のライフスタイル文化は歌舞伎が商品のシンボル、流行の源泉を担っていた。これらには「衒示的消費」conspicuous consumtionの欲望を挑発するオーラに満ちあふれていた、ドキドキワクワクの時代でした。
モノづくりの仕組み、ネットづくりそれぞれの企業は、独自性を維持しながらも、あたかも形を変える原生動物のアメーバーのように、一つのビジネス実現のために、ターゲットの企業と柔軟に結びついてネットワークを組み、そのビジネスが終われば、離れていく。水平的なナレッジマネジメントをもっとも効率的に行って、共創優位。
企業系列の依存から離れ、技術力や商品企画力を持ち他企業が水平的に結びついて、職人の暗黙知をフルに活用しながら、物づくりを行い、脱工業化、情報化社会のビジネスモデルを築きあげている。
職人の役割が重要職人の知恵を生かすー感性をモノづくりに生かすのは職人という考え方。
仕事=労働に熟練する喜びという、遊びの要素が混じる職人の仕事振りは、未来を啓示してもいる。
「日本のアパレルメーカーがイタリアの縫製工場を分析した結果わかったことは、日本の縫製工場はおよそ80前後の工程に対して、イタリアのそれはおよそ120であるということだ。その差の40もの工程は、職人による手作業の工程である。イタリアでも機械化できるところはコンピュータを駆使して自動化・省力化している。
一方、着心地の良さを生み出すと考える工程では、職人による手作りの味を極力残そうとしているのだ。
例えば、日本の縫製工場ではアイロンがけは出来上がってからの最終仕上げだけが、イタリアではいくつかの重要なポイントでアイロンをかける。裁断をする前に熟練工が生地を入念にアイロン掛けする。反物として巻かれた生地は押しつけられているので、アイロンをかけて立体化し、着るときと同じ状態にして裁断するためである。もう一つの例は日本では肩付けの工程はプレス器で機械的に行うのが一般的であるが、イタリアでは職人が工夫して作り上げた肩のパターンを基にしてアイロンをかけながら行う。」(小林元氏 文教学院大学大学院客員教授) 職人の役割は、よりよく作り込む人である。
これらが「脳と心をマッサージする商品」開発のベースです。
小林元氏 文教学院大学大学院客員教授の「人生を楽しむイタリア式仕事術」(日経ビジネス人文庫)を参考にさせていただきました。見方、考え方のヒントが満載です。ぜひお読み下さい。
日本オリエンテーション 松本勝英
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